休業損害Q&A 【2023年2月7日更新】
交通事故の被害者の方から良く受ける質問や、交通事故裁判で争点となる問題のうち、休業損害について、Q&Aに纏めてみました。
目 次
総論
各論(被害者の属性による場合分け)
総論
Ⅰ 休業損害が発生する場合
Q.自分は交通事故の被害者ですが、休業損害はどんな場合に支払って貰えるのでしょうか。
A.事故により現実に休業して、収入が減少していれば、支払って貰えます。
但し、有給休暇を使用して休業した場合は、現実の収入減少がなくとも休業損害を支払って貰えます。
Ⅱ 休業損害の計算方法
Q.休業損害は、どのように計算されますか?
A. 基本的に、①事故前の収入日額(基礎収入)×②休業日数で計算されます。
①の「事故前の収入日額(基礎収入)」は、実務上、事故前3ヶ月の平均賃金額を用いることが多いです。②の「休業日数」は、治療期間の限度内で認定されます。
Ⅲ 休業損害の請求に必要な書類
Q.休業損害を請求するために必要な書類は何ですか。
A.通常は、休業損害証明書と事故前年の「源泉徴収票」が必要です。
休業損害証明書の用紙は、事故直後に保険会社から送られてきます。この用紙を勤務先に提出して、事故前の賃金と休業日数を記入して貰えば、事故前の基礎収入と事故による休業日数を証明することができ、これをもとに休業損害が計算されます。
Q.休業損害証明書がないと休業損害は支払って貰えませんか。
A.休業損害証明書がなくとも休業損害の支払を受ける事は可能です。
そもそも専業主婦や個人事業主の方は、休業損害証明書を用意できません。したがって、全てのケースで休業損害証明書が必要な訳ではありません。
各論
Ⅰ 給与所得者(会社員、公務員、アルバイト等)の休業損害
※給与所得者とは、雇用契約等に基づき労務を提供しその対価として所得を得ている者をいいます。日雇労働者やアルバイトも含まれます。
Q.私は会社員(給与所得者)ですが、休業損害を請求するためには何が必要ですか?
A.「休業損害証明書」と事故前年の「源泉徴収票」が必要です。
通常は、この2点で足りますが、いずれも私文書にすぎないため、信憑性等に問題がある場合には、納税証明書や課税証明書といった公的書類を要求されるケースもあります。
Q. 「休業損害証明書」は、どこに行けば貰えますか。
A.相手の保険会社から送られてきます(お持ちでない場合は当事務所でもお渡しできます)。
Q.給与所得者の休業損害はどのように計算されますか。
A.事故前の収入日額(基礎収入額)×休業日数です。
「休業損害証明書」には、事故前3ヶ月の賃金を記載する欄や休業日を記載する欄があり、その記載によって、休業損害が計算されます。
Q.相手の保険会社から届いた計算書をみると、事故前3ヶ月の平均賃金額を90日で割った額×休業日数で計算されていました。90日ではなく、実際の労働日数で割った金額×休業日数=休業損害として請求できませんか?
A.できます。
ご質問は、基礎収入=「事故前の収入日額」をどう捉えるかに関わります。
例えば、長期入院により土日を含め連続して休業したケースでは、事故前3ヶ月の平均賃金
額を90日で割った日額×休業日数で計算することは合理的ですが、連続して休業しなかっ
たケースでは、実際の労働日数をもとに計算した場合に比べ日額が低くなる分、休業損害も
過小になってしまいます。そのようなケースでは、実際の労働日数をもとに休業損害を計算
して請求するのが合理的です。
Q.休業期間中に昇給(昇格)があった場合でも、事故前の収入をもとに休業損害が計算されるのですか。
A.昇給(昇格)があった場合は、その後の収入をもとに計算されます。
Q.ボーナス(賞与)の減額分も支払って貰えますか。
A.事故による欠勤がなければ使用者(会社)の賃金規定に従った賞与を受けることができていた場合には可能です。ただし、事故による賞与減額(不支給)の証明は難しいので、勤務先から、賞与減額証明書を発行して貰うのが良いでしょう。
Q.「有給休暇」を使用して休んだ場合も、休業損害を支払って貰えますか?
A.支払を受けられます。
有給休暇使用の場合は会社から給与が全額支給されるため、休業損害を貰えないのではと思う方が多いです。
しかし、有給休暇は労働者の権利として、それ自体が財産的価値を有しているといえるので、事故によって有給を消化する事になったという意味で損害の発生を肯定でき、したがって、有給消化分を休業損害として請求することができます。
Q.「副業収入」も休業損害の対象になりますか?
A.副業収入の存在と金額を証明できれば、本業と同様、副業収入についても休業損害として請求できます。
Q.事故による怪我が原因で就労不能となり「解雇」されてしまいました。解雇された場合は休業損害は貰えませんか?
A.事故に遭わなければ解雇されずに済んでいたであろう場合は、無職状態となった以降も、現実に就労困難な期間について、休業損害の請求が可能です。
なお、解雇された場合だけでなく、「退職を余儀なくされた」場合も同様です。
Q.退職後に就労可能な状態に回復しました。就労可能となった後は、休業損害を支払って貰えないのでしょうか。再就職先がなかなか見つかりません。
A.そのような場合は、実際に就職するまでの期間あるいは再就職に要する相当な期間のいずれか短い期間を休業期間として、休業損害の請求をすることが可能です。
なお、解雇された場合だけでなく、「退職を余儀なくされた」場合も同様です。
Q.私は定職に就かずアルバイト中に事故に遭いました。アルバイトでも休業損害を支払って貰えますか?
A.事故前の基礎収入や休業日数を証明する資料があれば、休業損害を請求できます。
Q.事故前3ヶ月は偶々収入が低かった時期なので、もっと以前の収入をもとに休業損害を支払って貰いたいのですが、可能ですか。
A.収入が月によって大きく変動するなど、事故前3ヶ月の収入を基礎収入として休業損害を計算すると不公正になるケースでは、可能です。
そのようなケースでは、例えば、前年の収入、事故前数年分の平均収入、前年あるいは過去数年の同時期の収入を基礎収入として、休業損害が計算される場合があります。
Ⅱ 事業所得者(自営業者、自由業者)の休業損害
※事業所得者とは、商・工業、農林水産業、サービス業その他いわゆる自由業などに従事し、個人名で事業を営んでいる者をいいます。
Q.私は自営業ですが、休業損害を請求するためには何が必要ですか?
A.事故前年の確定申告書が必要です。
納税証明書などの公的書類を要求されるケースがあることは、給与所得者の場合と同様です。
Q.自営業(事業所得者)の休業損害はどのように計算されますか。
A.事故前の収入日額(基礎収入額)×休業日数で計算されますが、収入日額(基礎収入額)は、事故前年の確定申告所得額により認定されます。
青色申告控除がなされている場合は、「事故前年の確定申告所得額」は青色申告控除前の額となります。
Q.確定申告書上は家族に給与を支払っていますが、実際には家族労働は行われていません。したがって、家族に対する支払給与額分だけ、私の所得は実際より低く抑えられています。このような場合、実際の所得額を基礎収入として、休業損害を請求する事はできませんか。
A.そのようなケースでは、家族に対する支払給与額を被害者の所得額に加算して休業損害を計算する裁判例もあります。
なお、逆に、被害者の事業に家族が従事していて、所得額には家族労働による利益が含まれているケースでは、所得に対し被害者本人が利益を生み出した部分(本人寄与分)のみが休業損害の対象とされます。
Q.休業中であっても事業のために借りている家賃の支払や、損害保険料、リース代等の固定費がかかります。このような固定費分も支払って貰えますか。
A.事業の維持・存続のために必要やむを得ないものは、賠償すべき損害として認められます。
Q.事故前年の所得額は偶々低額だったので、それ以前の所得額を基礎収入として休業損害を支払って貰いたいのですが、可能ですか。
A.年度間で相当の変動がある場合など、前年度の所得額で計算するのが不公正な場合は、可能です。そのようなケースで、事故前数年分の平均額を基礎収入として休業損害を算定した裁判例があります。
Q.事業開始直後に事故に遭ったため、事故前年の確定申告所得額は示せません。このような場合はどうすれば良いですか。
A.事故直前の現実収入などから平均賃金が得られる蓋然性を証明できれば、賃金センサスなどを利用して休業損害を請求することができるでしょう。
Q.私は確定申告をしていませんが、無申告だと休業損害は支払って貰えませんか。
A.無申告であっても、ただちに休業損害が否定されることはありません。
事故当時一定の収入があったことの合理的な証明ができれば、賃金センサスに基づく年齢別平均賃金を参考に休業損害が認められる裁判例もあります。
Q.確定申告はしていますが、過小申告でした。実際はもっと所得があったので、その所得額をもとに休業損害を支払ってもらう事はできませんか。
A.その所得額を裏付ける収入や経費を客観的な証拠書類等により証明できれば、可能です。
Q.私は、事故により手足を受傷し、事故後は作業が全くできなくなってしまいました。そこで、事業継続のために自分と同等の技術者に賃金を支払い何とか休業を回避しました。その人に支払った賃金を支払って貰えますか。
A.ご質問のケースのように、いわゆる代替労働力を利用することにより休業を回避した場合には、それに要した必要・相当な費用額を、休業損害として支払って貰えます。
また、代替労働力を利用したにもかかわらず減収を避けられなかった場合は、その分も合わせて支払を受けられます。
Q.事故後の休業により結局、店舗を閉鎖して、廃業せざるを得なくなりました。店舗撤去費用等の廃業費用も支払って貰えますか。
A.事故により廃業せざるを得なくなったと認められる場合は、廃業により無駄になった費用や店舗・設備の撤去費用等を、賠償すべき損害として支払って貰えます。
Ⅲ 会社役員の休業損害
Q.「会社役員」なのですが、会社役員も、事故前の報酬額をもとに休業損害を支払って貰えますか?
A.労務提供の対価部分は休業損害として支払って貰えますが、利益配当の実質をもつ部分は
休業損害の対象から除外されます。
なぜなら、会社役員(代表取締役、取締役等)の報酬には、純粋な労務の対価部分とそうではない部分(利益配当部分)が混在しており、利益配当部分は休業によっても失われないので(=休業しても前と同じように貰える)、休業損害の対象から除外されます。
Q.会社役員の場合、休業損害(や逸失利益)の額を巡って裁判になることが多いと聞きました。それは、どうしてですか。
A.会社役員の休業損害は、報酬額のうち労務提供の対価部分のみが対象になるので、労務対価部分の額は幾らか、どのように計算すべきかについて紛糾し、尚且つ、金額が多額なことが多いため、示談では解決できないケースが多いからです。
Q.事故後会社を欠勤しましたが、会社からは事故前同様の報酬を受け取っていました。そこで、会社が肩代わりして支払った報酬額を加害者に請求したいと言っています。可能でしょうか。
A.可能です。
ただし、その場合も、会社が支払を求められる額は、役員報酬中の労務対価部分であることに変わりはありません。
Q.会社役員の場合、休業損害を請求するためには何が必要ですか?
A.労務対価部分の証明方法として、確定申告書、法人税の確定申告書および役員報酬内訳書等の付随書類、陳述書等が必要となります。
Q.役員報酬中の労務対価部分の額は、実際には、どのように判断されるのですか。
A.次のような要素を総合考慮して、ケースごとに個別具体的に判断されます。
会社の規模(同族会社か否か等)、利益状況、被害者の地位・職務内容、年齢、報酬額、他の役員・従業員の報酬・給与の額・職務内容(親族役員と非親族役員との報酬額の違い)、事故後の被害者の報酬額の推移、類似法人の役員報酬の支払状況など。
分かり易い参考裁判例を、1つだけ、ご紹介します。
判決の要旨:65歳男性・会社役員について、復職後、事故前に比べて30%業務量が減少したが報酬月額は変わらなかったことから、役員報酬年1,200万円のうち一部は労働の内容や程度と関わりなく得られていたと推認するのが相当として、従前の職務の内容に鑑み、原告(被害者)の労働と対価的関連性を有する部分の金額を、一般的な労働者が得るであろう平均的な賃金の2倍程度の額に相当する年960万円と認定した(東京地裁平成25年3月13日・交民46巻2号353頁)。
Ⅳ 家事従事者
※「家事従事者」とは、家族のために家事労働に従事する者をいいます。
Q.専業主婦でも休業損害を支払って貰えると聞きましたが、本当ですか?
A.本当です。
専業主婦は収入がありませんが、家事労働は、他人に頼めば対価を支払わなければならないため、金銭的評価が可能であることから、専業主婦であっても休業損害は認められます。
Q.主夫の場合でも休業損害を支払ってもらえますか。
A.支払って貰えます。
ご質問のように、男性が家事労働をしている場合の専業主夫のケースでも、休業損害を支払って貰うことができます。
Q.家事従事者の休業損害はどのように計算されますか。
A.基本的に、賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金を基礎収入として、その賃金センサス日額×休業日数で計算されます。なお、自賠責保険の基準では、一日につき定額が支払われます。
Q.私は専業主婦ですが、幸い怪我は軽症で、事故後、入院することも無く、通院治療に通う以外は家事をすることが出来ました。
そのような場合も、女性労働者の平均賃金額を基礎に計算されますか。
休業日数はどのように計算されるのでしょうか。
A.ご質問のケースでは、家事労働を休んだ日数は客観的に明かでないので、実際に通院した日数や通院期間をもとにして、その何割かを休業日数(期間)と捉えて計算することが多いです。
実際には、怪我の程度や兼業の有無、後遺障害の有無等、諸事情を考慮して休業損害が計算されます。
Q.私は、兼業主婦ですが、兼業の場合は仕事上の収入も加算して休業損害を支払って貰えるのでしょうか。
A.いいえ、仕事上の現実の収入額と女性労働者の平均賃金額のいずれか高い方を基礎収入として計算されます。
Q.70歳の祖母が被害に遭いました。
祖母のような高齢者であっても休業損害を支払って貰えますか。
A.ご高齢者の場合は、身体状況や同居家族との生活状況等を考慮した上で、女性労働者の平均賃金額より減額した金額を基礎に休業損害が計算されます。
Q.家事従事者の場合、休業損害を請求するためには何が必要ですか?
A.家事従事者性の立証のために、同居家族の存在を証する住民票を提出する場合があります。難しいのは損害の証明で、家事従事者の場合は、休業による損害を証明する客観的証拠がないため、本人の陳述書や通院先医療期間の診断書等の医療記録が必要になることがあります。
Ⅴ 無職者(失業者、学生・生徒等の若年者)
Q.私は失業中に事故に遭いました。失業者は、休業損害を請求できませんか。
A.失業中の方や無職者は、収入がないため休業損害は発生せず、したがって、休業損害を請求できないのが原則ですが、労働能力と労働意欲があり就労の蓋然性がある場合は、休業損害を請求できます。就職が内定していた場合は、休業損害を請求できます。
Q.失業中の事故の場合、休業損害はどのように計算されますか。
A.失業者は収入がないので、①事故前の収入日額(基礎収入)も、②事故による休業日数も立証困難ですが、①については、失業前の過去の収入、失職の経緯、年齢・技能・資格等や賃金センサスの平均賃金を参考に、得られるであろう収入を推測し、②については、就労していたであろう適当な時期を推測して、その時期から休業日数を計算します。
裁判では、こうして然るべき基礎収入を認定した上で、事故時から休業日数をカウントして休業損害を算定するケースもあります。
なお、失業中であっても就職内定者の場合は、内定していた賃金を基礎収入として、就労予定日から就労可能となる日までの間を休業日数として、休業損害が計算されます。
Q. 私は学生ですが、事故前はアルバイトをしていました。休業損害は支払って貰えますか。
A. 学生や生徒等といった若年者は、収入がないのが通常なので、原則として休業損害は否定されますが、ご質問のケースのように、アルバイトにより現実に収入を得ていた場合は、その事故前収入に基づき、休業損害を支払って貰えます。
ただし、学生アルバイトは授業のために就労日数が減少する等、会社員に比べて就労状況が安定していない場合が多いので、休業日数(事故がなければ就労していた日数)の証明が難しいケースが多いかもしれません。
Q.私は学生ですが、事故に遭い、一年就職が遅れてしまいました。就職遅れによる休業損害を請求できませんか。
A.その場合は、就職すれば得られたはずの給与額を基礎収入として、就職が遅れた期間分の休業損害を請求できます。
その際、就職が内定していれば内定していた給与額が基礎収入となりますが、内定がなく給与額を明確にできない場合は、賃金センサスの学歴別の初任給平均賃金によることになるでしょう。
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