【バイク事故判例㉒】T字路交差点における右折バイクと直進バイクとの衝突事故。直進バイクの所有者と運転者が原告となり、車両損害と人身損害等の賠償を求めた事案

(令和3年6月8日東京地裁判決/出典:ウエストロー・ジャパン)

関係車両

普通自動二輪バイク(直進車) 対 原付バイク(右折車)

 

事故態様

事故現場は、東西道路と南北道路が交わる信号機のないT字路交差点。東西道路は一方通行路で、南北道路は片側一車線(南北道路が優先道路)。

 

このT字路交差点に向かう東西道路を、原付きバイクが東方から西方へ走行し、交差点入り口の一時停止標識付近で一時停止し、その後、交差点内に進行したが、その際、南北道路を南方に向かい直進する自動二輪バイクを確認するも、自動二輪バイクが交差点に到達する前に右折出来ると考え、先に交差点内に進入し右折したところ、自動二輪バイクと衝突した(原付バイクの右側面に自動二輪バイクの前輪が衝突し、自動二輪バイクは全損となった)。

 

訴訟の当事者

自動二輪バイク(直進車)の運転者と所有者の2名が原告となり、原付バイクの運転者を被告として、それぞれ人身損害や車両損害の賠償を求めて訴訟を提起した。

 

けが(傷害)

右脛骨骨幹部開放骨折、左眼窩吹き抜け骨折、歯の動揺等

 

治療期間

入院約3ヶ月、通院9ヶ月弱(症状固定までの期間は約1年)

 

後遺障害

左眼視力低下、左目の複視、前額部の痛み(自賠責保険の後遺障害等級は併合第12級)

 

過失割合

自動二輪バイク(直進車/原告)20%、原付バイク(右折車/被告)80%

 

判決のポイント

①過失割合

道路交通法では、交差する道路が優先道路の場合は、優先道路を通行する車両の進行を妨害してはならないとされている(同法36条2項)。本件では、優先道路である南北道路を原告車(自動二輪バイク)が直進中だったところ、被告車(原付バイク)がその進行を妨害したとして、裁判所は、被告(原付バイク運転者)に事故発生に関する過失があるとした。

 

その一方で、原告(自動二輪バイク運転者)にも、優先道路であるとはいえ、一方通行路から交差点に進入する車両が存在することは容易に予測できたこと、特に本件事故は、被告車(原付バイク)が交差点に先に進入してから発生していることを理由に、相応の過失が認められると述べて、過失割合を上記のとおり認定した。

 

②原告らの損害

原告らの請求額は、原告X1(自動二輪バイク運転者)が約880万円、原告X2(自動二輪バイクの所有者)が20万円だったが、裁判所の認容額は、原告X1が約535万円、原告X2が11万円だった。

 

内訳は次のとおり

(ⅰ)原告X1:治療費、通院交通費、入院雑費、休業損害、逸失利益、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、眼鏡代(事故後に購入した眼鏡代)、着衣損、携帯電話代及び弁護士費用の合計金(但し、過失相殺分(20%)、受領済みの自賠責保険金及び労災保険金を控除後の金額)

 

(ⅱ)原告X2:車両損害及び弁護士費用

 

小林のコメント

本件では、被告にも損害が生じていて、被告の主張によれば、その額は、人身損害が1400万円以上、物的損害(車両損害)が16万円だそうです。

 

もっとも、被告は、被告の損害が原告らの損害よりも大きいことを理由に、原告の請求を争うだけで、自らが原告となって反訴<注>を提起することはありませんでした。

 

<注> 反訴とは、訴訟の被告が原告に対し、同じ訴訟手続き内での審理を求めて訴えを提起することをいいます。

 

そのため、裁判所は判決で、「被告は,本件事故により被告にも損害が生じた旨主張するが,仮にそのような事実が認められても,同事実をもって原告らに生じた損害を減額することはできない。」「被告主張の被告の損害については,本件において考慮しない。」と述べて、被告の主張を一蹴しました。

 

訴訟の場で、被告が反訴を提起すること無く、自らの損害を主張するケースは珍しかったので、取り上げてみました。

 

(平成25年11月13日東京地裁判決/出典:交民 46巻6号1437頁等)

関係車両

バイク(普通自動二輪車)vs普通乗用自動車

 

事故の状況

信号機の表示に従い交差点を直進したバイクが、右折禁止場所である交差点を右折しようとした自動車の左側面に衝突した。

 

けが(傷害)

顔面骨多発骨折(頭蓋底・上顎骨・鼻骨・頬骨・蝶型骨骨折),歯牙損傷,脳挫傷(味覚・嗅覚麻痺),右下腿内顆骨折,右結膜下出血

 

入院等の期間

①入院2ヶ月(60日)
②通院約1年3ヶ月(実日数は107日)

後遺障害

嗅覚障害(12級)、歯牙破折による歯牙障害(13級5号)、顔面の醜状障害(14級10号)により、併合11級

 

過失の割合

バイク5%、乗用車95%

 

判決のポイント

①過失割合(過失相殺)

本件交差点は道路標識により右折進行が禁止されていたにもかかわらず、加害者は道路標識に気づかないまま右折進行した上、交差点内においても対向車線の見通しが良くない状況であったにもかかわらず、左前方を注視せず、バイクと衝突するまで、対向車線を進行してくるバイクに気がつかなかったとして、本件事故は、専ら加害者の右折禁止義務違反及び左前方の注視義務違反によるとする一方で、被害者においても、交差点内を通行しようとする際の運転者の注意義務や安全運転義務を全く免れるものとすることもできず、仮に、その衝突直前まで右折進行してくる加害車に全く気づかなかったとしても、それ自体に過失を認めざるを得ないとして、5パーセントの過失相殺を認めた。

 

②逸失利益

被害者は、事故当時、飲食店勤務。和食の飲食店を自ら開店する夢を持ち、店主の了解も得て勤務していたが、本件事故により嗅覚脱出に陥ったため、事故前と同じ飲食店での勤務や将来の和食の飲食店開店を断念せざるを得なかったことから、当該後遺障害により労働能力を一部喪失したものと評価すべきであるとして、その労働能力喪失率は14%に及ぶとし、労働能力喪失期間を38年として逸失利益を算定した。

 

③慰謝料(後遺障害分)

本件事故により被害者が将来の夢であった和食の飲食店の開店を断念せざるを得ず、調理人として生きていくこともできなくなったことをも考慮して500万円の後遺障害慰謝料が認められた。

 

小林のコメント

裁判所は、歯牙障害や顔面の醜状障害による逸失利益は否定しました。嗅覚障害についても、一般的には労働能力の喪失に直結しないため逸失利益まで認めれるケースは多くないところ、本件では、被害者が調理師であったこと、和食店を開店するという将来的な予定があったことを重視して、嗅覚障害(12級)の労働能力喪失率である14%をそのまま用いて逸失利益を算定しました。

 

また、後遺障害慰謝料の算定にあたっても、当該事情を斟酌して11級の通常の慰謝料(420万円程度)の2割増しの慰謝料が認定されました。

 

 

 

(令和3年5月19日東京地裁判決/出典:自保ジャーナル2102号58頁)

関係車両

バイク(普通自動二輪車) 対 四輪車(普通乗用自動車)

 

事故態様

赤信号で停止中のバイクに自動車が追突し、バイク運転者は衝突地点から約10メートル飛ばされて路上に倒れ、バイクは約13メートル前方まで滑走し停止した。追突車の運転者は飲酒運転で、事故後、救護義務・報告義務を果たさずに事故現場から離れた。

 

けが(傷害)

骨盤骨折、頸椎捻挫、左足関節の擦過傷

 

治療期間

約2年7ヶ月(後遺障害診断書記載の症状固定日までの入通院期間)

 

後遺障害

自賠責保険の認定は、次の①~③により併合14級

①頸椎捻挫後の右上肢しびれ及び左上肢尺側中心しびれの症状につき14級9号
②骨盤骨折後の歩行時左股関節痛、左大転子部痛、運動痛等の症状につき14級9号
③左足関節内果周囲の色素沈着につき14級5号

 

判決のポイント

①事故と頚椎椎間板ヘルニアとの因果関係

原告(バイク運転者)は、事故により後ろ向きに飛ばされ、足を真上にした状態で頭から地面に落下し、この際ヘルメットで項を強打し、第7頚椎と第8頚椎(第1胸椎)間の椎間板ヘルニアが生じたと主張したが、裁判所は、事故時の写真や救急搬送先の病院における負傷内容等から、本件事故の態様が原告主張のものであると認めるに足る証拠はないとした。

 

また、椎間板ヘルニアは外部からの衝撃以外にも加齢に伴って生じることがあるとし、事故後の治療経過や原告の年齢も考慮すると、原告主張の頚椎椎間板ヘルニアは本件事故により生じたものとは認められないとした。

 

②事故と心的外傷後ストレス障害(PTSD)との因果関係

原告(バイク運転者)は、本件事故により心的外傷後ストレス障害(PTSD)にり患したと主張したが、裁判所は、フラッシュバックや自動車走行音への恐怖や回避及び不眠が認められると診断されたのは事故から3年6ヶ月以上を経過した後である事等を理由として、本件事故により原告が心的外傷後ストレス障害(PTSD)にり患したとは認められないとした。

 

③後遺障害の程度

原告(バイク運転者)は、頸部痛と左上肢尺側しびれ感は、第7頚椎と第8頚椎(第1胸椎)間の椎間板ヘルニアに起因するもので、このことは他覚的所見に基づき医学的に証明されているとして、頸部痛と左上肢尺側しびれの症状は、後遺障害等級12級13号の後遺障害に該当すると主張したが、裁判所は上記①のとおり頚椎椎間板ヘルニアは本件事故によるものではないとし、又、しびれの症状は画像所見や神経学的異常所見により裏付けられているともいえない、さらには、頸部痛は、本件事故から10年前の交通事故の際に後遺障害として認定されたものに含まれるとして、後遺障害等級を12級13号とする原告主張を退けた。

 

④休業損害

原告(バイク運転者)は、事故後1年~症状固定日までの休業損害として約750万円を請求したが、裁判所は、この時期は、頚椎捻挫のみが症状固定に至っていない状態だったとした上で、この時点では治療は1ヶ月に4ないし5回程度で3ヶ月後には14級9号の後遺障害が残存し症状固定に至っていることを理由に、この時期の労働制限を平均して25%と認定し、原告の基礎収入をもとに、休業損害を約27万円と認定した。

 

小林のコメント

被害バイクの運転者は、賠償金の増額を求めて提訴しましたが、結果は、2,000万円の請求に対し270万円余りの認定に止まりました。

 

後遺障害は、自賠責保険の認定どおり14級と判断されたため(労働能力喪失率は5%)、後遺障害逸失利益も後遺障害慰謝料の金額も伸びず、休業損害も、休業時期における原告の症状を子細に検討した上で、僅かな増額に止まりました。

 

症状固定の時期も争点となりましたが、判決では、後遺障害診断書記載の症状固定日より1年半も前に全ての症状が固定していたと認定され、その結果、入通院(傷害)慰謝料も原告主張が233万円だったのに対し190万円の認定に止まりました。

 

もっとも190万円は、被告(乗用車の運転者)が飲酒運転で、事故現場から立ち去ったという悪質性を考慮して通常よりも増額されました。

 

訴訟提起のために要した費用や労力を考えると、判決結果は原告にとって厳しいものとなりました。

 

【2023年2月21日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

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