【バイク事故判例⑱】信号機のない十字路交差点において,直進バイクと直進自動車とが出合頭衝突した事故において、バイク運転者(女性)の眼の症状については後遺障害を否定したが、眼の症状が軽快するまでに被った精神的苦痛を斟酌し、請求額以上の傷害慰謝料が認められたケース

(令和 元年 6月13日大阪地裁判決/出典:交民 52巻3号709頁等)

関係車両

バイク(原動機付自転車)vs普通乗用車

 

事故の状況

事故現場は、片側1車線の東西道路と南北道路が交差する十字路交差点。信号機による交通整理は行われていない。交差点の南側には一時停止規制が設けられ、路面には「止まれ」の文字が表記されていた。

 

バイクは、東西道路を東から西に向かって直進し交差点に進入したが、一方、自動車は、南側停止線前で一時停止することなく交差点に進入し、交差点内で、自動車の右側面後部とバイク前輪とが衝突し、バイク運転者は転倒した。

 

けが(傷害)

左膝靭帯損傷の疑い、腰椎捻挫、右手打撲、頸椎捻挫、頭部打撲、急性硬膜下血腫、外傷性眼筋麻痺及び右股関節痛

 

入院等の期間

①入院34日
②通院70日(実日数)

 

後遺障害

左膝の疼痛・左下肢脱力感等の症状は、自賠法施行令別表第二14級9号(「局部に神経症状を残すもの」)。頭部打撲後の両眼の視力低下・左右上下視における複視の症状は、後遺障害非該当(いずれも損害保険料率算出機構の認定どおり)。

 

過失の割合

バイク15%、自動車85%

 

判決のポイント

①過失割合

裁判所は、交差点進入前に一時停止し左右を確認したとの自動車運転者側の主張を否定し、その一方で、バイクが直進走行していた東西道路の見通しは良く、南側停止線も十分に見えることを考慮し、バイク側にも一定程度の前方不注視の過失があったとして、双方の過失割合を上記のとおり認定しました。

 

②後遺障害

バイク運転者は、事故によって右滑車神経麻痺を原因とする右眼の複視の後遺障害が残存したとして、「一眼の眼球に著しい運動障害を残すもの」として自賠法施行令別表第二12級1号に該当する等と主張しましたが、裁判所は、右眼の症状について詳細な検討をしつつ、12級1号(「一眼の眼球に著しい運動障害を残すもの」)、13級2号(「正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの」)、13級1号(「一眼の視力が0.6以下になったもの」)のいずれにも該当しないと判断し、後遺障害を否定しました。

 

しかし、次のように述べて、傷害(入通院)慰謝料が増額されました。すなわち、「右眼の負傷により現に社会生活上の多岐にわたる領域で相応の不便を強いられてきたという事情が優に認められ(中略)、そのような事情については、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料の枠組みの中ではなくとも、損害額の算定に当たって何らかの形で斟酌するのが相当である。

 

すなわち、少なくとも原告の右眼の症状が軽快し固定するまでの間に被った精神的苦痛については相当程度大きかったものであると評価し、入通院慰謝料の算定に当たって斟酌するのが相当である。」と述べ、195万円の傷害(入通院)慰謝料が認定されました。

 

小林のコメント

本件の被害者(バイク運転者)は、主婦業をこなしながら生命保険会社の外務員として働く女性でした。事故によって右眼を負傷し、その後約1年半もの間、複数の病院で診察や検査を受ける等、この間、公私にわたり相当な生活上の不自由を強いられたことは容易に想像できます。

 

このような事情を汲んで、裁判官は、右眼については後遺障害を認定することはできないが、「症状が軽快し固定するまでの間に被った精神的苦痛は相当程度大きかった」と評価した上で、傷害慰謝料を請求額以上に増額しました。

 

つまり、裁判で被害者が請求した傷害慰謝料は174万円で、一般には、この金額以上の支払が認められることはありませんが、本件では、被害者保護の見地から、敢えて踏み込んだ判断をしたといえます。

 

この点につき、裁判官は判決中で、「なお、個別の費目について原告が主張する金額以上の損害額を認定したとしても、全体の認容額が請求額を超えない限り、処分権主義に反するものではない。」と、民事訴訟の原則に違反しないことを注意的に述べている点が目を引きます。

 

慰謝料は裁判官の裁量で決められるので、その利点を生かして、少しでも被害者の精神的苦痛を慰謝したいとの裁判官の心情がくみ取れる判決といえます。

 

(平成22年11月25日京都地裁判決/出典:交民 43巻6号1527頁)

けが(傷害)

頭部外傷、右鎖骨骨折、右肩甲骨骨折、右多発肋骨骨折、右肩腱板損傷、右膝挫創、右腸骨部挫傷、腰椎捻挫等

 

治療期間

事故後69日間入院、その後約1年4ヶ月通院

 

後遺障害

自賠責保険の後遺障害等級は併合9級(右鎖骨の変形につき12級5号、右肩関節可動域制限(2分の1以下)につき10級10号)

 

請求額

2,128万円余り(自賠責保険金等の既払い金約730万円を控除後の損害賠償金)

 

判決のポイント

①事故状況

裁判では、事故状況(衝突の原因)も争点となりましたが、裁判所は、バイクは本道内の車線左寄りを直進中で、その後方から乗用車が進行して来てバイクに接近し、追いつきつつあった時点で側道に進路変更したため衝突したと認定しました。

 

②過失割合

裁判所は、事故状況に関する上記の認定を前提に、バイクは制限速度程度で直進していたもので後方から追いつきながら進路変更をして自車の進路を妨害してくる車両を事前に予測して回避すべき注意義務は負わないと述べ、バイクには過失はないと判断しました。

 

③症状固定後の治療費

被害者(症状固定時62歳)は、症状固定後も骨折箇所の疼痛や頭痛が続いたことから、平均余命にわたりペインクリニック等で通院治療を継続して受けるための治療費として580万円余りを請求しました。

 

これに対して裁判所は、今後も治療を要する旨の医師の診断等を根拠に、症状固定後であっても事故と相当因果関係がある治療と評価すべきで、その期間は症状固定後5年間、年間の治療費必要額は30万円であるとして、中間利息控除後の金額として129万8820円を認定しました。

 

小林のコメント

状固定後の治療費について

受傷後の症状が症状固定と診断されると、その後の治療費は原則として損害賠償の対象となりません(後遺障害の問題として評価されます)。

 

例外は、治療が生命維持のために必要不可欠な場合や、症状の悪化を防止するために必要不可欠な場合ですが、実際に認められるケースは少ないでしょう。

 

本件では、訴訟提起後も継続して通院を継続していたことや複数の担当医の意見により、上記のとおり症状固定後に支出された治療費が損害として認められました。

 

【2024年2月10日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

(平成29年 4月13日東京地裁判決/出典:交民 50巻6号1661頁等)

関係車両

バイク(大型自動二輪車)vs普通乗用自動車

 

事故の状況

バイクが片側3車線の第2車線を直進し、対面信号機の青色表示に従い交差点に進入したところ、右折車と衝突した。

 

けが(傷害)

脳挫傷、左急性硬膜外血腫、骨盤骨折、右鎖骨骨折、右下腿挫創等

 

入院等の期間

①入院9ヶ月半(283日)
②通院3年5ヶ月(実日数は94日)

後遺障害

高次脳機能障害(2級1号)。他に、視野障害(9級3号)、頭部の瘢痕(12級14号)、骨盤骨の変形障害(12級5号)による併合8級。

 

過失の割合

バイク20%、乗用車80%

 

判決のポイント

①過失割合

加害車両には、交差点内で一旦停止した後、徐行することなく、一気に右折を完了しようとした点で大きな過失があるとする一方、被害者にも、交差点を直進通過するに当たり、進路前方に右折してくる対向車両の動静を十分に注視することを怠り、かつ、制限速度を相当程度超過していた点で過失があるとし、過失割合を、被害者20%、80%とした。

 

②高次脳機能障害の程度

被害者の高次脳機能障害の程度について、加害者側は、継続的な服薬治療とリハビリテーションにより、単純作業であれば就労が可能な程度となっているとして、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、特に軽易な労務以外に労務に服することができないもの」として5級2号にとどまり、他の後遺障害と併せても併合4級で、労働能力喪失率は92%にとどまると主張したが、裁判所は、被害者は、本件事故前には、会社勤めをして通常の社会生活を送っていたにもかかわらず、本件事故後は、認知障害、行動障害、人格変化が顕著で、医師らは、日常生活の全ての場面で家人の介助を必要とする状態であると診断していること等を理由に、高次脳機能障害の程度は、自賠責保険の認定どおり「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」として2級1号に該当し、労働能力喪失率は100%に達しているとした。

 

③入院付添看護費

被害者の母親らは、入院期間中、付添介護をしたので、裁判所は、次のように述べて、一日あたり6500円の付添費を認めた。「被害者は入院期間中、医療関係者に対して暴力を振るったり、母親らが同席しない場ではリハビリテーションを拒否したり、拒食となったり、服薬を拒否したりしていたことに照らすと、さいたま赤十字病院及び山形病院がいずれも完全看護制を採用しているとしても、付添介護の必要性が認められ、その日額は6500円とするのが相当である。」

 

④成年後見人報酬

事故後、被害者には成年後見人が選任され、就任後1年6ヶ月の間、被害者に支払われる自賠責保険金、休業補償給付、障害厚生年金等の管理等を行ったが、以後も成年後見人の職務を遂行する必要があり、その報酬額は月額2万円を下らないとして、被害者の生存中、月額2万円の成年後見人報酬についても本件事故による損害と認め、その額を411万円6040円と認定した。

 

⑤慰謝料(本人と近親者の後遺障害分)

(1)本人分 2800万円

(2)母親分 200万円

本件事故により、子に重篤な後遺障害が残り、その介護を行うことを余儀なくされたことなど一切の事情を考慮し、母親の近親者慰謝料を200万円と認定した。

(3)妹分 100万円

入院中は付添看護を行い、退院後は母親と共に被害者と同居し、声掛け、見守り、通院時を含む外出時の付添い、成年後見申立て等の援助を継続して行っていることから、親子や配偶者と同視できる程度に緊密な関係にあったとして、妹にも近親者固有の慰謝料を認め、その額を100万円と認定した。
<注>金額は、いずれも過失相殺前のもの

 

お気軽にお問合せ下さいませ

ImgTop5.jpg
●ホーム ●弁護士紹介 ●事務所紹介 ●アクセス ●弁護士費用
 
トップへ