【バイク事故判例⑬】運転する原付バイクが停止車のタクシーのドアに衝突し、握力低下等(後遺障害14級)が残った33歳男性調理師のケース
(平成21年12月17日千葉地裁判決/出典:自保ジャーナル 1818号77頁等)
関係車両
バイク(原動機付自転車)vsタクシー(事業用普通乗用自動車)
事故の状況
T字路交差点手前で、前方を走行するタクシーが停車したので、原付バイクがその左側を通過しようとしたところ、タクシーが乗客を乗せようと、左後部の自動ドアを開けた為、ドアの側面が原付バイクの右側面に当たり、その反動で、バイク運転者(被害者)は左前方へ飛ばされ、地面に倒れ、負傷した。
けが(傷害)
頸椎捻挫、全身打撲(左肘・右膝・胸部・臀部)
入院等の期間
①入院なし
②通院1年2ヶ月(実日数は不詳)
後遺障害
右手の握力低下、頭痛など(14級)
過失の割合
バイク10%、トラック90%
判決のポイント
①過失割合(過失相殺)
タクシー運転者は、左後部ドアの開扉の操作を行った際、左へ顔を向けて、左後部ドアの真横部分に障害物がないかどうかは確認したが、バックミラーやサイドミラーで後方の車両等の動静について確認することはしなかった。
一方、被害者の位置からは、タクシーが歩行者を乗車させようとして左後部ドアを開けることは予測困難であったが、タクシーが乗客を乗せようとしているかどうかを十分に確認することなく、漫然と左脇を通過しようとした被害者にも過失があるとして、被害者に1割の過失相殺を認めた。
②逸失利益
右手の握力低下は、利き腕に関するもので、左手の握力の半分程度となっている。被害者は調理師として稼働していたが、事故後は包丁を握るなどの面で実際に支障が生じている。
さらに、握力低下の状態は、事故後5年以上が経過した現在も解消せず、今後も相当程度の期間にわたって継続することが見込まれる等の事情を考慮して、労働能力喪失率は8%、労働能力喪失期間は15年間として、逸失利益を算定した。
③慰謝料(後遺障害分)
利き腕である右手の握力低下が調理師としての仕事に与える影響と考慮して、130万円を認定した。
小林のコメント
後遺障害14級の労働能力喪失率は通常5%とされ、又、後遺障害慰謝料は通常110万円程度ですが、本件では、労働能力喪失率を8%と認めて逸失利益を増額し、慰謝料も130万円に増額しました。
(平成11年9月29日札幌地裁判決/出典:交民32巻5号1510頁等)
関係車両
バイク(普通自動二輪車)、自動車(普通乗用自動車)
事故態様
事故現場は国道(南北道路)と狭い脇道(東西道路)が交差する地点で信号機はない。自動車が狭い脇道から東方に出て、国道を横断し、国道の中央分離帯を越えて、さらに片側二車線の中央付近にまで達した地点で、国道を南方に走行中のバイクに衝突した。
けが(傷害)
顔面骨骨折、鼻篩骨粉砕骨折、顔面裂挫傷、頸部捻挫、第三頸椎棘突起骨折、左第五・六肋骨骨折、右強角膜裂傷、右網膜剥離、右増殖性網膜硝子体症、右外傷性白内障、右第二指中手骨骨折等
治療期間
入院6ヶ月、通院日数229日(症状固定までの期間は3年8ヶ月余り)
後遺障害
併合7級(右顔面醜状障害12級13号、右眼視力障害(手動弁)8級1号、右眼視野障害13級1号、嗅覚障害12級相当)
過失割合
バイク15%、自動車85%
判決のポイント
①過失割合
自動車の過失について、裁判所は、国道の中央分離帯付近で左方を十分確認すればより早い時点でバイクを発見でき事故を避けることができた、運転者が満68歳という高齢で左眼に白内障を患っていた事情(左眼の視力は矯正後0.6くらい)は、過失を認める方向に働くと述べ、その責任を認めました。
一方、バイク側にも、国道の制限速度(時速50㎞)を超える時速約68ないし78㎞前後で走行していたことや、東西道路(脇道)の存在を認識していたことから過失相殺を認め、双方の過失割合を上記のとおり認定しました。
②後遺障害逸失利益
逸失利益の請求に対し、被告(自動車側)は、被害者(バイク運転者)が事故後賃金カットされていないばかりか昇給していることを理由に、逸失利益の損害は発生していないと反論しました。
裁判所も、被害者が事故後に昇給していること等から、被害者が現に従事している業務(裏口の警備、書類等の運搬、郵便物の仕分け、ロビーの案内等)との関連では、後遺障害7級の労働能力喪失率56パーセントに達する程度までの不自由が生じている証拠はないと述べました。
ただ、同時に、被害者の後遺障害(顔面醜状、右眼視力障害、右眼視野障害、嗅覚障害)が、現在の業務に一定の影響を及ぼしていることは十分推認されるし、昇給・昇任・転職等に際して不利益な取扱いを受けるおそれもある、右眼の症状はむしろ将来悪化する懸念がある等と述べ、結論として、現在の職務に従事し得る限り、その労働能力喪失率は7級の喪失率56パーセントの3割として逸失利益の算定を行うのが相当であると述べました。
また、被害者は、定年(60歳)前の55歳以降は「専任行員」となり年収も半分に減ることとなっているがそうした条件で雇用関係が継続されるか否かは定かでないとして、55歳以降はむしろ症状固定時の賃金センサス(産業計・企業規模計・学歴計30歳~34歳男子労働者平均給与額)を基礎に、56パーセントの労働能力喪失率で逸失利益の算定を行うのが相当であると述べました。
その結果、55歳までは症状固定時の年収を基礎に、55歳から就労可能年である67歳までは賃金センサスの年収を基礎に、合計約2500万円の逸失利益を認めました。
小林のコメント
本件のように事故後に収入減少がない場合は、後遺症に起因する財産上の不利益はなく、逸失利益は認められないとする考え方もあります。
しかし、「例えば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしている結果であると認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であっても本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱いを受けるおそれがある場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情があれば、逸失利益を認める余地がある」とする最高裁判例があります(最三小判昭56.12.22)。
この最高裁の考え方からすると、事故後に減収がなくとも特段の事情があれば逸失利益が認められます。
本件の裁判所は、この最高裁と同じ考えに立って逸失利益を認めた上で、労働能力低下の程度(労働能力喪失率)については、後遺障害等級による労働能力喪失率を参考に、被害者の職業、年齢、後遺症の部位・程度等を総合的に考慮して判断したものと理解できます。
裁判では、事案ごとに具体的な事情を踏まえて逸失利益の算定が行われるので、その一例として取り上げました。
【2023年9月11日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか
(平成23年12月13日京都地裁判決/出典:交民 44巻6号1584頁)
関係車両
バイク(普通自動二輪車)vs普通乗用自動車
事故の状況
事故現場は、片側一車線の直線道路(中央線が黄色実線)。加害車両は、対向車線を右折して飲食店の駐車場に入るつもりで、右ウインカーを出しながら中央線に接近した位置で、赤信号待ちをしていた。青信号に変わったので、右折を開始したところ、直後に、右後方から走行してきたバイクと加害車両の右側面前部が衝突し、バイクは、右前方7、8メートル先で転倒・停止した。
けが(傷害)
左大腿部皮下血腫・擦過傷、左膝打撲、右肘打撲、左足打撲、左大腿皮膚壊死、脳内出血(外傷性)の疑い、左肩・左上腕打撲、蜂窩織炎の疑い、左半月板損傷の疑い、頸部痛及び左大腿壊疽
入院等の期間
①入院2ヶ月(58日)
②通院約1年6ヶ月(実日数は35日)
後遺障害
左大腿部皮下血腫等後の左大腿内側部の瘢痕(醜状障害・14級5号)、同部つっぱり感、内側下腿に至るしびれ、感覚障害、患部の疼痛等(当該等級に含まれる)
過失の割合
バイク35%、乗用車65%
判決のポイント
①過失割合(過失相殺)
乗用車は、対向車線を横断して路外に出るに当たり、右後方から追走してくる自動二輪車等の有無及びその動静を確認すべき注意義務があるが、右後方確認をしなかった過失があるとされた。
一方、バイクについては、追走するに当たり、乗用車が急停止したときにも追突を避けることができるよう車間距離を保たなければならない義務があるのに(道路交通法26条)、これを怠り至近距離まで接近したとし、さらに、乗用車が右方の路外駐車場に入ることも予想しなければならないのに、右折するものと軽信して措置を採らなかった過失があるとした。その上で、双方の過失割合を、バイク35、乗用車65と認定した。
②逸失利益
被害者は派遣社員。後遺症の仕事への影響について、被害者が、「衣類が接触すると疼痛を感じることがあるためズボンをはくにも配慮が必要で、そのため、制服の指定される職場への就職には支障がある」等と主張したのに対して、加害者側は、「制服の指定される職場は僅少であり、被害者の就職が現実に制限されているわけではない。」と反論したが、裁判所は、被害者には、「左大腿内側部瘢痕に派生する機能障害及び知覚異常等も認められる」とし、労働能力喪失率を5パーセント、労働能力喪失期間を20年として、逸失利益を認定した。
③慰謝料(後遺障害分)
一般の14級相当の後遺障害に比し、被害者の後遺障害は、とりわけ強い精神的苦痛を与えているとして、150万円を認定した。
小林のコメント
被害者の醜状障害は、顔面ではなく、下肢という比較的目立たない場所にありましたが、裁判所は、本人尋問の結果等から、後遺障害の内容・程度や、おそらく被害者が未婚の女性であったことも考慮して、逸失利益を手厚く認め、慰謝料も増額したものと思われます。
お気軽にお問合せ下さいませ
●ホーム | ●弁護士紹介 | ●事務所紹介 | ●アクセス | ●弁護士費用 |