【バイク事故判例㉘】片側二車線道路の第二車線をバイクで走行中、第一車線から進路変更してきた自動車と衝突し、右足関節等を負傷した事案において、過失割合をバイク3割、自動車7割と認定した事例

(令和元年9月5日さいたま地裁判決/出典:ウエストロー・ジャパン等)

関係車両

バイク(普通自動二輪車)、四輪車(普通貨物自動車)

 

事故態様

第一車両通行帯は渋滞中で、渋滞により停止した自動車が第二車線に車線変更しようと、右に方向指示器を点灯させて右後方を目視したが、バイクに気づかないまま発進し中央線付近で停止したところ、後方から進行してきたバイクが自動車の右側面に衝突した。

 

けが(傷害)

右足関節脱臼骨折(距骨,内果骨折)、右趾骨骨折等

 

治療期間

入院113日、通院日数56日(症状固定までの期間は1年半)

 

後遺障害

自賠責保険の等級は併合9級(右足関節の可動域制限につき10級11号、右足第1指の指節間関節の可動域制限につき12級12号)

 

過失割合

バイク3割、自動車7割

 

判決のポイント

①過失割合について

裁判所は、まず自動車側の過失について、車線変更するにあたり後方の安全を確認すべき義務があったがバイクの存在を見落とした過失があると述べました。一方、バイク側も、車線変更してくる車両の有無及びその動静に注意すべき義務を怠った他、バイクが第二車両通行帯の中央線付近を走行していたことは車線変更車との衝突する危険性を高める行為であったと述べ、このような事情を踏まえて、双方の過失割合を上記のとおり認定しました。

 

②休業損害(有給休暇を取得できなかった損害)

被害者は事故による欠勤のため、事故発生年及び翌年にそれぞれ20日分の合計40日分の有給休暇を取得できなかったため、欠勤による休業損害の他、有給休暇を取得できなかったことによる損害も主張しましたが、裁判所は、有給休暇には財産的な価値を認めることができるとして、有給休暇1日当たりの金額を算出し、その40日分を損害として認めました。

 

小林のコメント

①過失割合について

本件のような事故状況では、過失割合はバイクが2割、自動車が8割と判断される事が多いですが、裁判所は、バイクの過失を3割と通常よりも重く認定しました。これは、バイクが第一車線寄りの中央線付近を走行していたためと思われます。

 

因みに、バイク側は、自動車が方向指示器を点灯させるのが遅かったと主張しましたが、これに対して自動車側は、右発進する4秒程前に方向指示器を点灯させたと反論し、裁判ではバイク側の主張は認められませんでした。

 

②休業損害について

バイク事故では全身を打撲する等して怪我が多岐にわたることも多いですが、本件では、バイク運転者が負った怪我は足首と足指にほぼ限局していました。もっとも、右足首の関節は左の1/2以下しか動かず、右の足指(親指)も同様で、このため生活上の支障は相当に大きかったと思います。

 

実際に、被害者は事故後369日もの欠勤を余儀なくされました。判決では、欠勤による休業損害に加え、有給休暇を取得できなかった損害や賞与減額分も含め合計約470万円の休業損害が認められました。

 

【2023年8月31日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

(平成21年12月17日千葉地裁判決/出典:自保ジャーナル 1818号77頁等)

関係車両

バイク(原動機付自転車)vsタクシー(事業用普通乗用自動車)

 

事故の状況

T字路交差点手前で、前方を走行するタクシーが停車したので、原付バイクがその左側を通過しようとしたところ、タクシーが乗客を乗せようと、左後部の自動ドアを開けた為、ドアの側面が原付バイクの右側面に当たり、その反動で、バイク運転者(被害者)は左前方へ飛ばされ、地面に倒れ、負傷した。

 

けが(傷害)

頸椎捻挫、全身打撲(左肘・右膝・胸部・臀部)

 

入院等の期間

①入院なし
②通院1年2ヶ月(実日数は不詳)

 

後遺障害

右手の握力低下、頭痛など(14級)

 

過失の割合

バイク10%、トラック90%

 

判決のポイント

①過失割合(過失相殺)

タクシー運転者は、左後部ドアの開扉の操作を行った際、左へ顔を向けて、左後部ドアの真横部分に障害物がないかどうかは確認したが、バックミラーやサイドミラーで後方の車両等の動静について確認することはしなかった。

 

一方、被害者の位置からは、タクシーが歩行者を乗車させようとして左後部ドアを開けることは予測困難であったが、タクシーが乗客を乗せようとしているかどうかを十分に確認することなく、漫然と左脇を通過しようとした被害者にも過失があるとして、被害者に1割の過失相殺を認めた。

 

②逸失利益

右手の握力低下は、利き腕に関するもので、左手の握力の半分程度となっている。被害者は調理師として稼働していたが、事故後は包丁を握るなどの面で実際に支障が生じている。

 

さらに、握力低下の状態は、事故後5年以上が経過した現在も解消せず、今後も相当程度の期間にわたって継続することが見込まれる等の事情を考慮して、労働能力喪失率は8%、労働能力喪失期間は15年間として、逸失利益を算定した。

 

③慰謝料(後遺障害分)

利き腕である右手の握力低下が調理師としての仕事に与える影響と考慮して、130万円を認定した。

 

小林のコメント

後遺障害14級の労働能力喪失率は通常5%とされ、又、後遺障害慰謝料は通常110万円程度ですが、本件では、労働能力喪失率を8%と認めて逸失利益を増額し、慰謝料も130万円に増額しました。

 

 

(平成11年9月29日札幌地裁判決/出典:交民32巻5号1510頁等)

関係車両

バイク(普通自動二輪車)、自動車(普通乗用自動車)

 

事故態様

事故現場は国道(南北道路)と狭い脇道(東西道路)が交差する地点で信号機はない。自動車が狭い脇道から東方に出て、国道を横断し、国道の中央分離帯を越えて、さらに片側二車線の中央付近にまで達した地点で、国道を南方に走行中のバイクに衝突した。

 

けが(傷害)

顔面骨骨折、鼻篩骨粉砕骨折、顔面裂挫傷、頸部捻挫、第三頸椎棘突起骨折、左第五・六肋骨骨折、右強角膜裂傷、右網膜剥離、右増殖性網膜硝子体症、右外傷性白内障、右第二指中手骨骨折等

 

治療期間

入院6ヶ月、通院日数229日(症状固定までの期間は3年8ヶ月余り)

 

後遺障害

併合7級(右顔面醜状障害12級13号、右眼視力障害(手動弁)8級1号、右眼視野障害13級1号、嗅覚障害12級相当)

 

過失割合

バイク15%、自動車85%

 

判決のポイント

①過失割合

自動車の過失について、裁判所は、国道の中央分離帯付近で左方を十分確認すればより早い時点でバイクを発見でき事故を避けることができた、運転者が満68歳という高齢で左眼に白内障を患っていた事情(左眼の視力は矯正後0.6くらい)は、過失を認める方向に働くと述べ、その責任を認めました。

 

一方、バイク側にも、国道の制限速度(時速50㎞)を超える時速約68ないし78㎞前後で走行していたことや、東西道路(脇道)の存在を認識していたことから過失相殺を認め、双方の過失割合を上記のとおり認定しました。

 

②後遺障害逸失利益

逸失利益の請求に対し、被告(自動車側)は、被害者(バイク運転者)が事故後賃金カットされていないばかりか昇給していることを理由に、逸失利益の損害は発生していないと反論しました。

 

裁判所も、被害者が事故後に昇給していること等から、被害者が現に従事している業務(裏口の警備、書類等の運搬、郵便物の仕分け、ロビーの案内等)との関連では、後遺障害7級の労働能力喪失率56パーセントに達する程度までの不自由が生じている証拠はないと述べました。

 

ただ、同時に、被害者の後遺障害(顔面醜状、右眼視力障害、右眼視野障害、嗅覚障害)が、現在の業務に一定の影響を及ぼしていることは十分推認されるし、昇給・昇任・転職等に際して不利益な取扱いを受けるおそれもある、右眼の症状はむしろ将来悪化する懸念がある等と述べ、結論として、現在の職務に従事し得る限り、その労働能力喪失率は7級の喪失率56パーセントの3割として逸失利益の算定を行うのが相当であると述べました。

 

また、被害者は、定年(60歳)前の55歳以降は「専任行員」となり年収も半分に減ることとなっているがそうした条件で雇用関係が継続されるか否かは定かでないとして、55歳以降はむしろ症状固定時の賃金センサス(産業計・企業規模計・学歴計30歳~34歳男子労働者平均給与額)を基礎に、56パーセントの労働能力喪失率で逸失利益の算定を行うのが相当であると述べました。

 

その結果、55歳までは症状固定時の年収を基礎に、55歳から就労可能年である67歳までは賃金センサスの年収を基礎に、合計約2500万円の逸失利益を認めました。

 

小林のコメント

本件のように事故後に収入減少がない場合は、後遺症に起因する財産上の不利益はなく、逸失利益は認められないとする考え方もあります。

 

しかし、「例えば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしている結果であると認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であっても本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱いを受けるおそれがある場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情があれば、逸失利益を認める余地がある」とする最高裁判例があります(最三小判昭56.12.22)。

 

この最高裁の考え方からすると、事故後に減収がなくとも特段の事情があれば逸失利益が認められます。

 

本件の裁判所は、この最高裁と同じ考えに立って逸失利益を認めた上で、労働能力低下の程度(労働能力喪失率)については、後遺障害等級による労働能力喪失率を参考に、被害者の職業、年齢、後遺症の部位・程度等を総合的に考慮して判断したものと理解できます。

 

裁判では、事案ごとに具体的な事情を踏まえて逸失利益の算定が行われるので、その一例として取り上げました。

 

【2023年9月11日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

お気軽にお問合せ下さいませ

ImgTop5.jpg
●ホーム ●弁護士紹介 ●事務所紹介 ●アクセス ●弁護士費用
 
トップへ