【バイク事故判例㉗】バイクで直進中、信号機のない交差点で乗用車と出会い頭衝突をし、外傷性くも膜下出血等により1級後遺障害を残したバイク運転者について、その過失割合を物件損害に関しては65%、人身損害については75%と認定した事例
(平成29年7月18日横浜地裁判決/出典:交民50巻4号884頁等)
関係車両
バイク(普通自動二輪車) 対 四輪車(普通乗用自動車)
事故態様
事故現場は、道路が斜めに交差する見通しが悪い交差点(道路幅は4㍍程でほぼ同幅員、制限速度はともに時速30km、バイクの走行道路には一時停止線があり、乗用車の走行道路にはカーブミラーが設置されていた)。
乗用車はカーブミラーにバイクが映っていなかったので減速せずに時速約40kmで交差点に進入し、バイクも交差点の手前で一時停止せず、同程度の速度で交差点に進入し、乗用車の左前方と左側面部分等がバイクの右前部等と衝突し、その際、バイク運転者の頭部が乗用車のフロントガラスに衝突し、乗用車は約12.9m先で停止し、バイク運転者は衝突地点から8.5m先で転倒、バイクもその付近で転倒した。
けが(傷害)
外傷性くも膜下出血,急性硬膜外血腫,頭蓋底骨折・脳挫傷,内頸動脈海綿静脈洞瘻,眼窩底骨折,上顎骨骨折,下顎骨骨折,頬骨弓骨折等
治療期間
入院252日、通院日数5日(症状固定までの期間は1年2ヶ月余り)
後遺障害
「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」(自賠責保険後遺障害1級1号)
過失割合
①物件損害に関してはバイク65%、乗用車35%
②人身損害に関しては、バイク75%、乗用車25%
判決のポイント
①物損と人損で異なる過失割合を適用
交通事故事件では通常、いわゆる物損についても人損についても同じ過失割合を用いて賠償金が算定されますが、本件で裁判所は、物損と人損で異なる判断をしました。
その理由は、バイク運転者に、事故発生に関する過失以外にも、ヘルメットを適正に装着していなかった過失があり、それにより人身損害が拡大したからです。
②損害拡大防止義務
損害賠償実務では一般に、被害者側にも損害の拡大を防止すべき義務があるといわれています。
被害者の損害拡大防止義務は、損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨から認められるもので、被害者が通常期待される注意義務を尽くしていれば損害の拡大を容易に防止できたのにしなかった場合は当該損害は被害者が甘受すべきであるという考えに基づきます。
シートベルトの不着用の場合にも妥当しますが、本件では、事故当時、バイク運転者はヘルメットを被っていたものの、顎紐を締めずにバイクに乗っていて、事故の際ヘルメットが頭部から外れ、その状態で乗用車のフロントガラスに頭部を衝突したと認定され、このようなヘルメットを適切に装着しなかった過失が傷害や後遺障害の程度に大きく寄与したことを理由に、人身損害を算定するにあたっては、バイク運転者の過失割合を75%とすべきであると判断されたものです。
③事故発生の過失割合(バイク65%、乗用車35%)の判断理由
裁判で、バイク側は自らの過失割合(=事故発生に関する過失の程度)を40%と主張しましたが、裁判所は、一時停止をせずに交差点に進入したバイク運転者の過失の方が乗用車の運転者よりも大きいと述べて、事故発生に関する過失割合をバイク65%、乗用車35%と認定しました。
小林のコメント
以前のコラムでも取り上げたように、バイクに乗車中の事故はヘルメット以外に身体を守るものがないため重症化しやすく、警視庁の交通事故統計(2020年中)によると、死亡事故の25パーセントで、事故時にヘルメットが脱落していたそうです。
本件の判決を見ると、ヘルメットは,本件事故の衝突地点から6.1m離れた地点で倒れていたバイクのそばに落ちていて、バイク運手者は乗用車のフロントガラスに頭を打ち付け、フロントガラスが蜘蛛の巣状に割れるほどの衝撃を受けて、急性硬膜外血腫や頭蓋底骨折などの傷害を負ったと認定されています。
幸い一命は取り留めましたが、まさに、バイクに乗車中の事故は重症化しやすいという統計結果どおりの悲惨な事故でした。
実際の裁判では、過失割合以外にも、逸失利益や将来の介護費用、成年後見監督人の費用の額等が争点となりましたが、バイク運転者の請求額が4億7660万円余りと極めて高額であったため、過失割合が中心的な争点となり、結果、上記のとおりバイク側に65%、75%という大幅な過失が認定されました。因みに、判決では1億1600万円余り(物件・人身合計額)が認容されました。
【2023年8月16日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか
(平成31年4月22日東京地裁判決/出典:交民 52巻2号455頁等)
関係車両
バイク(普通自動二輪車)vsトラック(中型貨物自動車)
事故の状況
事故現場は、幅員が約3㍍と狭く(中央線なし)、湾曲して見通しの悪い道路。妻を同乗させてバイク走行中、対向進行してきたトラックと道路中央付近ですれ違った際、トラックのバックミラーとバイク運転者のヘルメットが接触し、バイクが転倒し、同乗の妻が下記の障害等を負った。
けが(傷害)
左仙骨臼蓋骨折、左座骨骨折、右恥骨骨折、第2・第3腰椎横突起骨折等
入院等の期間
①入院3ヶ月(87日)
②通院約1年10ヶ月(実日数は12日)
後遺障害
生殖器の障害(恥骨部痛等を含む)(11級相当)、左仙骨臼蓋骨折・左坐骨骨折後の左股関節痛(12級13号)、左大腿部の知覚障害、左下肢の知覚障害感覚障害等(12級13号)により、併合10級相当
過失の割合
バイク40%、トラック60%
判決のポイント
①過失割合(過失相殺)
双方とも、幅員が狭い上、湾曲して見通しの悪い本件道路を走行するに当たり、その道路状況に応じて前方を注視し、適切な速度調整等を行って進行すべき義務を怠った過失があるとして、本件事故がバイクと四輪車との事故であることを考慮し、過失割合を、バイク4割、トラック6割とした。
②逸失利益
被害者は、有職の主婦(日本刀のレプリカの製作販売業)。日本刀のレプリカの製作・販売業務によって高額の収入を継続的に得られていたとは認められないから、逸失利益の算定に当たって、その基礎収入は、家事従事者であることを前提に、賃金センサス(平成28年女性労働者・全年齢学歴計平均賃金376万2300円)によるとした。また、各後遺障害のうち生殖器の障害は、その等級どおりの喪失率をもって労働能力に影響が生じているとはいえないとして、労働能力喪失率を20%(併合11級相当)とし、労働能力喪失期間は、67歳までの30年間として、逸失利益を認めた。
③慰謝料(後遺障害分)
被害者は、後遺障害により自然分娩が困難となり、出産の際に帝王切開を余儀なくされることに照らすと、将来に対する不安の程度はより大きいものがあると述べ、600万円を認定した。
小林のコメント
後遺障害11級の慰謝料は通常420万円程度のところ、本件では、上記の事情を汲んで大幅に増額されました。
(令和元年9月5日さいたま地裁判決/出典:ウエストロー・ジャパン等)
関係車両
バイク(普通自動二輪車)、四輪車(普通貨物自動車)
事故態様
第一車両通行帯は渋滞中で、渋滞により停止した自動車が第二車線に車線変更しようと、右に方向指示器を点灯させて右後方を目視したが、バイクに気づかないまま発進し中央線付近で停止したところ、後方から進行してきたバイクが自動車の右側面に衝突した。
けが(傷害)
右足関節脱臼骨折(距骨,内果骨折)、右趾骨骨折等
治療期間
入院113日、通院日数56日(症状固定までの期間は1年半)
後遺障害
自賠責保険の等級は併合9級(右足関節の可動域制限につき10級11号、右足第1指の指節間関節の可動域制限につき12級12号)
過失割合
バイク3割、自動車7割
判決のポイント
①過失割合について
裁判所は、まず自動車側の過失について、車線変更するにあたり後方の安全を確認すべき義務があったがバイクの存在を見落とした過失があると述べました。一方、バイク側も、車線変更してくる車両の有無及びその動静に注意すべき義務を怠った他、バイクが第二車両通行帯の中央線付近を走行していたことは車線変更車との衝突する危険性を高める行為であったと述べ、このような事情を踏まえて、双方の過失割合を上記のとおり認定しました。
②休業損害(有給休暇を取得できなかった損害)
被害者は事故による欠勤のため、事故発生年及び翌年にそれぞれ20日分の合計40日分の有給休暇を取得できなかったため、欠勤による休業損害の他、有給休暇を取得できなかったことによる損害も主張しましたが、裁判所は、有給休暇には財産的な価値を認めることができるとして、有給休暇1日当たりの金額を算出し、その40日分を損害として認めました。
小林のコメント
①過失割合について
本件のような事故状況では、過失割合はバイクが2割、自動車が8割と判断される事が多いですが、裁判所は、バイクの過失を3割と通常よりも重く認定しました。これは、バイクが第一車線寄りの中央線付近を走行していたためと思われます。
因みに、バイク側は、自動車が方向指示器を点灯させるのが遅かったと主張しましたが、これに対して自動車側は、右発進する4秒程前に方向指示器を点灯させたと反論し、裁判ではバイク側の主張は認められませんでした。
②休業損害について
バイク事故では全身を打撲する等して怪我が多岐にわたることも多いですが、本件では、バイク運転者が負った怪我は足首と足指にほぼ限局していました。もっとも、右足首の関節は左の1/2以下しか動かず、右の足指(親指)も同様で、このため生活上の支障は相当に大きかったと思います。
実際に、被害者は事故後369日もの欠勤を余儀なくされました。判決では、欠勤による休業損害に加え、有給休暇を取得できなかった損害や賞与減額分も含め合計約470万円の休業損害が認められました。
【2023年8月31日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか
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