【バイク事故判例⑩】赤信号を無視して交差点に進入した加害車両がバイクに衝突し、高次脳機能障害(後遺障害1級)が残った40代男性のケース

(平成22年10月27日東京地裁判決/出典:自保ジャーナル 1840号1頁等)

関係車両

バイク(普通自動二輪車)vs普通乗用自動車

 

事故の状況

加害車両が赤信号を看過して交差点に進入したため、右方から青信号に従って交差点に進入してきたバイクに衝突した。

 

けが(傷害)

脳挫傷

 

入院等の期間

①入院約10ヶ月 (305日)

 

後遺障害

右片麻痺、右感覚障害、高次脳機能障害(脱抑制・記憶障害・失語・遂行機能障害・集中力低下・若年性認知症状態)、尿失禁により「常に介護を要するもの」に該当(1級1号)

 

過失の割合

バイク0%、乗用車100%

 

判決のポイント

①将来介護費

被害者の介護のため、妻は事故後、退職を余儀なくされたが、職場復帰すれば、通所施設の利用時間に照らし、その前後は今よりも長い時間のヘルパー利用が不可避となること、現在の金額でのデイサービスの利用が今後も可能とは限らないこと、夜間・早朝は妻による近親者介護が必要であることにかんがみ、平日(年240日)の付添介護費は日額1万6000円が相当、公休日(年125日)の妻による付添介護費は、日額9000円が相当であるとして、同金額をもとに妻が67歳になるまで(22年間)の付添介護費用を算定し、それ以降は、職業介護人による介護が行われる蓋然性が高いので、現時点での職業介護人の1時間当たりの単価等を考慮し、日額2万円で付添介護費用を算定した。合計額は約8740万円。

 

②慰謝料(後遺障害分)

(1)本人分 3000万円
被害者が一家の主柱であったこと、事故は加害者の赤信号看過が原因となっており、被害者に全く責任はないこと等が考慮された。
(2)妻分 300万円
(3)子供分 200万円

 

(平成29年11月30日大阪地裁判決/出典:交民 50巻6号1460頁等)

関係車両

バイク(普通自動二輪車)と四輪車(普通乗用自動車)

 

事故の状況

事故現場は、東西道路と南北道路が交差する信号機のない交差点付近。

 

バイクは東西道路を西方に直進し交差点手前で停止したが、自動車は南北道路を南から東へ右折してバイクと衝突。

 

バイクは運転者ごと約2.6メートル後方に飛ばされて、右側に転倒した。

 

けが(傷害)

右肩打撲、右肘捻挫、右肩腱板断裂

 

治療期間

入院40日、通院実日数167日(症状固定まで1年)

 

後遺障害

自賠責保険の認定は、右肩のしびれ感等の症状につき14級9号(「局部に神経症状を残すもの」)

 

判決のポイント

①後遺障害等級

バイク側の主張は、自賠責保険後遺障害等級12級13号(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)。根拠は、右肩腱板断裂後の右肩、右腕等の痛みやしびれ等のため腱板縫合術を受けたが術後も症状は残り、MRI画像上、縫合部の腱の実質部及び肩峰下滑液包に高輝度領域が認められ、症状を裏付ける他覚的所見があるとするもの。

 

これに対して、裁判所は、「MRI画像上、縫合部の腱の連続性は確認できる」との主治医見解や、「術後の画像上、腱板の連続性は得られ、修復されている」ことから症状を裏付ける他覚的所見を否定した自賠責保険の判断を根拠に、バイク側の主張を退け、14級9号に該当すると判断した。

 

②休業損害及び逸失利益

被害者であるバイク運転者は、事故当時、トラック運転手として就職したばかりで、事故後、重いものを持つことができず、正式採用後に復職できないまま退職せざるを得なかったとし、事故後1年間の休業損害として470万円余りを請求した。また、12級相当の後遺障害が残ったことによる逸失利益として831万円(症状固定時50歳~就労可能年である67歳まで14%の労働能力を喪失した事による損害)を請求した。

 

しかし裁判所は、休業損害については、右肩は事故後9ヶ月後には一般男性が行う仕事が可能な状態まで改善したこと等を理由に311万円余りと認定し、逸失利益については、後遺障害等級14級を前提に、症状固定後5年間の金額として101万円余りを認定した。

 

小林のコメント

①過失割合について

交差点での衝突事故においてはバイク側にも事故発生の過失があることを前提に、多くのケースで過失相殺が争点になりますが、本件では、自動車側が早廻り右折をして停止中のバイクに衝突したという事故状況だったため、自動車側の一方的過失による事故であることを前提に、過失割合は争点になりませんでした。

 

②腱板断裂(損傷)について

バイクの転倒事故では肩を地面に強打して脱臼や腱板断裂(腱板損傷)を来すケースがよくみられ、本件でもバイク運転者は右肩に手術を要する程の腱板断裂という怪我を負い、トラック運転手の仕事ができないまま退職を余儀なくされたという気の毒なケースでした。

 

しかし、バイク運転者が主張した12級相当の後遺障害等級は認められませんでした。

 

手術後の画像上、腱板の連続性が得られ修復されているというのが理由ですが、被害者にとっては、痛みの程度を画像所見から一刀両断的に判断されてしまう結果は酷かもしれません。

 

痛みの程度や生活への支障は個人の感じ方や従事する仕事が事務職か肉体労働かによっても異なるからです。

 

腱板断裂(腱板損傷)については後遺症を申請しても認められなかったり、認められても14級に止まることが多いという印象ですが、本件についても同じ印象を持ちました。

 

【2023年7月24日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

(平成29年1月24日横浜地裁判決/出典:自保ジャーナル 1996号47頁等)

関係車両

バイク(大型自動二輪車)vsトラック(普通貨物自動車)

 

事故の状況

事故現場は片側3車線の高速道路上。バイクは第3車線を時速約120kmで走行し、第2車線では加害トラックが時速約100kmで走行していた。トラックが第2車線から、第3車線を走行中のバイクの前方に車線変更をしてきた為、バイクは急ブレーキをかけたが、トラックの右後部にバイクのフロントカウルの左側が衝突し、バイクは右側に横転して滑走した。バイク運転者(被害者)が被っていたフルフェイスのヘルメットは、一部が陥没した。

 

けが(傷害)

右肘・右前腕筋挫傷、頚椎捻挫、外傷性頚部症候群、左黄斑浮腫、左硝子体出血、歯根破損等

 

入院等の期間

①入院 (5日)
②通院約4年3ヶ月(実日数は126日)

 

後遺障害

左眼の視力低下(「1眼の視力が0.02以下」)(8級1号)

 

過失の割合

バイク10%、乗用車90%

 

判決のポイント

①過失割合(過失相殺)

トラックは、進路変更の3秒前までに進路変更の合図を出さず、進路変更先の後続車の安全確認を十分に行わずに第2車線から第3車線に進路を変更し、バイクの進行を妨害したという過失がある。

一方、バイク運転者(被害者)は、前方で進路変更をする先行車を注視し、速度を遵守して走行する義務があったが、進路変更をするトラックを十分に注視せず、法定速度を超過して走行した過失がある。

裁判所は以上のように述べて、これらの過失の内容等を踏まえると、進路変更をして後続車の進行を妨害したトラックの過失の方が大きいとして、双方の過失割合をバイク10%、トラック90%と認定した。

 

②逸失利益

被害者の収入は、配属先が営業統括部からCS推進部に変更となった後も、事故前と比較して、減収しておらず、今後も、大きな減収が生じることは考え難いとしながら、もっとも、左眼に視力障害と視野障害を抱え、両眼を使用するよりも疲れて休憩を取る時間が増えた状況でありながらも、事故後に異動したCS推進部において、パソコンでの入力が中心となる業務で努力を重ね、勤務先付近に引っ越し、自宅での仕事の時間を増やしてまで仕事に時間を費やしたという不断の努力が、大きな減収が生じていない要因の一つになっているとして、これらの事情を考慮して、67歳まで、労働能力25%を喪失したことを前提に逸失利益を認定した。

 

③慰謝料(後遺障害分)

被害者は、営業成績を見込まれてa社に入社し、営業部で勤務していたものの、事故に遭ってCS推進部に異動となり、理事、役員への昇格への可能性が以前よりは少なくなったとし、これらの事情が考慮され、900万円が認められた。

 

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