【バイク事故判例㉕】優先道路を直進中のバイクと右折自動車との衝突事故により、左肩を脱臼骨折する等し、自賠責保険で12級後遺障害が認定され、裁判でも自賠責保険の認定が維持された事例

(令和3年6月10日大阪地裁判決/出典:自保ジャーナル2104号62頁、ウエストロー・ジャパン)

関係車両

バイク(原動機付き自転車) 対 四輪車(普通乗用自動車)

 

事故態様

事故現場は信号機のない十字路交差点で、一方が優先道路。

 

バイクは優先道路を北から南へ直進し、自動車は非優先道路を東から西に進行して交差点手前で一時停止した。

 

ところが、バイクが交差点に進入する際、自動車が動き出し、バイクの方に右折してきたことから、バイク運転者は急制動措置を講じ、そのため転倒・滑走し,交差点内で自動車と衝突した。

 

けが(傷害)

左肩関節脱臼骨折、左上腕骨大結節骨折等

 

治療期間

1年(うち入院3日)

 

後遺障害

自賠責保険の認定は、併合12級(左肩関節の機能障害につき12級6号、左上腕のしびれにつき14級9号)

 

過失割合

バイク10%、自動車90%

 

判決のポイント

①過失割合

裁判所は、「非優先道路を走行する被告(自動車の運転者)には優先道路を通行する車両の進行妨害をしてはならない義務があるにもかかわらずこれを怠った過失があり,これが本件事故の主な原因である」「他方、原告(バイク運転者)にも交差点に入ろうとするときには、交差道路を通行する車両に注意し、できる限り安全な速度と方法で通行しなければならない義務があるのにこれを怠った過失がある」として、双方の過失割合を、上記のとおり認定した。

 

②後遺障害の有無・程度

裁判では、バイク運転者の後遺障害のうち左肩関節の機能障害について争われ、被告(自動車)側は、後遺障害診断書の左肩関節可動域の測定値は、治療中の可動域との乖離が大きく信用できない、あるいは、原告(バイク運転者)は現在もゴルフのラウンドをしており,ゴルフスイングの様子からは,左肩関節可動域に後遺障害はないというべきであるなどと主張したが、裁判所は、後遺障害診断書作成医の証言等を理由に測定値の信用性に問題はないとし、また、ゴルフスイングできることが(肩の)外転に制限がないことを直ちに示すとはいえない上,実際のゴルフスイングの撮影動画からも周囲のゴルファーと比較してコンパクトなスイングと見ることもできるなどと述べて、被告の主張を退け、後遺障害を自賠責保険の認定どおり認めた。

 

小林のコメント

①過失割合について

本件のような事故状況の下では、その過失割合は基本的に、裁判所が認定したとおりとなります。裁判では、バイク側が無過失を主張し、その理由として、自動車が右ウインカーを点灯させていなかったことや、自動車が左方から来たバスに気を取られて脇見運転により右折したことなど挙げましたが、裁判所は、バイク側の主張を認めるに足りる証拠はないとして、その主張を退けました。

 

②バイク事故では、転倒時に肩を強打して、脱臼や骨折をし、リハビリ治療を続けても痛みや可動域制限が残ってしまうことがあります。

本件では、左肩の可動域制限を理由に後遺障害12級が認定されましたが、12級は、肩関節の主要運動とされる屈曲(前方挙上)や外転(側方挙上)の可動域角度が、障害のない側(健側)に比べて3/4以下となった場合に認定されます。

 

本件に即して言うと、後遺障害診断書に記載された肩関節の左の外転は105度、右の外転は155度で、外転は右の3/4以下でした(つまり、左腕を横に挙げると右腕を挙げたときの3/4程度までしか挙がりませんでした)。そこで、「一上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」として自賠責保険後遺障害等級12級6号が認定され、裁判でも、そのとおり認定された訳です。

 

一方、被告(自動車)側は、この可動域角度の測定値自体に疑問があるとして争ったのですが、裁判官は、後遺障害診断書を作成した医師の証言などを根拠に、測定値は信用できるとして、被告の主張を退けました。余程の事情がない限り、測定値に誤りがあることを証明するのは難しいと思います。

 

【2023年6月14日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

(平成22年10月27日東京地裁判決/出典:自保ジャーナル 1840号1頁等)

関係車両

バイク(普通自動二輪車)vs普通乗用自動車

 

事故の状況

加害車両が赤信号を看過して交差点に進入したため、右方から青信号に従って交差点に進入してきたバイクに衝突した。

 

けが(傷害)

脳挫傷

 

入院等の期間

①入院約10ヶ月 (305日)

 

後遺障害

右片麻痺、右感覚障害、高次脳機能障害(脱抑制・記憶障害・失語・遂行機能障害・集中力低下・若年性認知症状態)、尿失禁により「常に介護を要するもの」に該当(1級1号)

 

過失の割合

バイク0%、乗用車100%

 

判決のポイント

①将来介護費

被害者の介護のため、妻は事故後、退職を余儀なくされたが、職場復帰すれば、通所施設の利用時間に照らし、その前後は今よりも長い時間のヘルパー利用が不可避となること、現在の金額でのデイサービスの利用が今後も可能とは限らないこと、夜間・早朝は妻による近親者介護が必要であることにかんがみ、平日(年240日)の付添介護費は日額1万6000円が相当、公休日(年125日)の妻による付添介護費は、日額9000円が相当であるとして、同金額をもとに妻が67歳になるまで(22年間)の付添介護費用を算定し、それ以降は、職業介護人による介護が行われる蓋然性が高いので、現時点での職業介護人の1時間当たりの単価等を考慮し、日額2万円で付添介護費用を算定した。合計額は約8740万円。

 

②慰謝料(後遺障害分)

(1)本人分 3000万円
被害者が一家の主柱であったこと、事故は加害者の赤信号看過が原因となっており、被害者に全く責任はないこと等が考慮された。
(2)妻分 300万円
(3)子供分 200万円

 

(平成29年11月30日大阪地裁判決/出典:交民 50巻6号1460頁等)

関係車両

バイク(普通自動二輪車)と四輪車(普通乗用自動車)

 

事故の状況

事故現場は、東西道路と南北道路が交差する信号機のない交差点付近。

 

バイクは東西道路を西方に直進し交差点手前で停止したが、自動車は南北道路を南から東へ右折してバイクと衝突。

 

バイクは運転者ごと約2.6メートル後方に飛ばされて、右側に転倒した。

 

けが(傷害)

右肩打撲、右肘捻挫、右肩腱板断裂

 

治療期間

入院40日、通院実日数167日(症状固定まで1年)

 

後遺障害

自賠責保険の認定は、右肩のしびれ感等の症状につき14級9号(「局部に神経症状を残すもの」)

 

判決のポイント

①後遺障害等級

バイク側の主張は、自賠責保険後遺障害等級12級13号(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)。根拠は、右肩腱板断裂後の右肩、右腕等の痛みやしびれ等のため腱板縫合術を受けたが術後も症状は残り、MRI画像上、縫合部の腱の実質部及び肩峰下滑液包に高輝度領域が認められ、症状を裏付ける他覚的所見があるとするもの。

 

これに対して、裁判所は、「MRI画像上、縫合部の腱の連続性は確認できる」との主治医見解や、「術後の画像上、腱板の連続性は得られ、修復されている」ことから症状を裏付ける他覚的所見を否定した自賠責保険の判断を根拠に、バイク側の主張を退け、14級9号に該当すると判断した。

 

②休業損害及び逸失利益

被害者であるバイク運転者は、事故当時、トラック運転手として就職したばかりで、事故後、重いものを持つことができず、正式採用後に復職できないまま退職せざるを得なかったとし、事故後1年間の休業損害として470万円余りを請求した。また、12級相当の後遺障害が残ったことによる逸失利益として831万円(症状固定時50歳~就労可能年である67歳まで14%の労働能力を喪失した事による損害)を請求した。

 

しかし裁判所は、休業損害については、右肩は事故後9ヶ月後には一般男性が行う仕事が可能な状態まで改善したこと等を理由に311万円余りと認定し、逸失利益については、後遺障害等級14級を前提に、症状固定後5年間の金額として101万円余りを認定した。

 

小林のコメント

①過失割合について

交差点での衝突事故においてはバイク側にも事故発生の過失があることを前提に、多くのケースで過失相殺が争点になりますが、本件では、自動車側が早廻り右折をして停止中のバイクに衝突したという事故状況だったため、自動車側の一方的過失による事故であることを前提に、過失割合は争点になりませんでした。

 

②腱板断裂(損傷)について

バイクの転倒事故では肩を地面に強打して脱臼や腱板断裂(腱板損傷)を来すケースがよくみられ、本件でもバイク運転者は右肩に手術を要する程の腱板断裂という怪我を負い、トラック運転手の仕事ができないまま退職を余儀なくされたという気の毒なケースでした。

 

しかし、バイク運転者が主張した12級相当の後遺障害等級は認められませんでした。

 

手術後の画像上、腱板の連続性が得られ修復されているというのが理由ですが、被害者にとっては、痛みの程度を画像所見から一刀両断的に判断されてしまう結果は酷かもしれません。

 

痛みの程度や生活への支障は個人の感じ方や従事する仕事が事務職か肉体労働かによっても異なるからです。

 

腱板断裂(腱板損傷)については後遺症を申請しても認められなかったり、認められても14級に止まることが多いという印象ですが、本件についても同じ印象を持ちました。

 

【2023年7月24日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

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