【解決事例】帰宅途中に、横断歩道上で、後方より右折してきたバスに轢かれ、転倒し、後頭部を殴打。 外傷性くも膜下出血、脳挫傷、嗅覚障害、心的外傷後ストレス障害、脳脊髄液減少症等の傷害を負った高次脳機能障害の事案
被害者
女性会社員(事故当時40歳)
経過
事故後の1年間は入通院治療に専念し、完全休業した。
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1年後に職場に復職したが、従事する仕事は、事故前に比し、書類作成等の単純作業となり、且つ短時間勤務となった。
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復職後は、集中力低下やイライラ(易怒性)等によって、仕事の効率が低下するとともに職場の人間関係にも亀裂が生まれるようになり、疲労と気持ちの萎えにより、隔日を含む短時間勤務を続けざるを得ず、遂に完全復帰は叶わなかった。
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この間、脳神経外科、メンタルクリニック、耳鼻咽喉科等、複数の診療科に継続的に通院し、6年後に症状固定。
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固定時の残存症状は、頭痛、嘔気、フラッシュバック、集中力低下、易疲労感、めまい、嗅覚の低下(異臭)等。
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自賠責保険へ後遺障害等級認定の申請をしたところ、脳外傷による高次脳機能障害が残存していると判断され、その障害の程度は、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」として、自賠責保険後遺障害等級9級10号に該当するとされた。
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その後、加害者の保険会社との交渉のため、弁護士相談をし、当職に交渉依頼。
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受任後は、本人が9級以上の後遺障害に該当するのではないか?と等級に不満を持っていることが分かったため、交渉に先立ち、まず自賠責保険への異議申立を検討したが、9級以上の後遺障害の認定を受けるための医学的他覚所見を見い出すことは出来なかったので、異議申立は断念し、後遺障害9級を前提に保険会社との交渉をスタートさせた。
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示談交渉においては、保険会社から、示談レベルでは最上位の金額を提示して貰えたが、本人は、職を失う事への怖れとともに将来の経済的困窮に対する心配が非常に強かったため、更なる増額を求めて、示談を打ち切り、東京地裁への訴訟を提起することを決断。
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訴訟提起にあたっては、本人のメンタル面のストレス軽減の見地から、訴訟上の争点を極力減らした訴状を作成・提出した。そうしたところ、訴状が加害者に送達後~初回期日までの間に、早くも相手保険会社の代理人弁護士から和解の打診があった。
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初回期日において、和解金四千数百万で訴訟上の和解が成立した。
本件の特徴
被害者は、事故後から様々な自覚症状(頭痛、嘔気、フラッシュバック、集中力低下、易疲労感、めまい、嗅覚の低下)に悩まされ、6年間という長期にわたり脳神経外科やメンタルクリニックで治療を受け続けたが、症状は無くなることなく、自賠責保険へ後遺障害の認定を申請したところ高次脳機能障害であるとされた。
自賠責保険(共済)における高次脳機能障害とは、「自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会」の平成23年3月4日付け報告書によると、「脳外傷後の急性期に始まり多少軽減しながら慢性期へと続く、次の特徴的な臨床像である」とされ、「a)典型的な症状」として、多彩な認知障害、行動障害および人格変化が指摘されている。
1)認知障害とは、記憶・記銘力障害・注意・集中力障害、遂行機能障害など、2)行動障害とは、周囲の状況に合わせた適切な行動ができない、複数のことを同時に処理できない、職場や社会のマナーやルールを守れない、話が回りくどく要点を相手に伝えることができない、行動を抑制できない、危険を予測・察知して回避的行動をとることができないなど、3)人格変化とは、受傷前には見られなかった発動性低下と抑制低下であるといわれる。
以上の知見を本件にあてはめると、被害者が、事故後、疲労感や集中力の低下のためフルタイム勤務が出来なくなった事は、集中力障害(認知障害)や自発性・気力の低下(人格変化)の現れとして捉える事ができるし、職場の人間関係が原因で腹を立てて仕事を休んでしまったなどというエピソードは、行動障害(社会適応能力の低下)や易怒性・自己中心性(人格の変化)の現れとして捉える事ができるので、訴状ではそのような事実を丁寧に主張したが、そのこともあってか、初回期日での和解という珍しい、超早期解決が実現できた。
因みに、本件は、平成29年~平成30年の訴訟で、改正民法が施行前だったため、判決となれば、事故後~判決までの間、年5分という高利の遅延損害金が課される事が明かであったため、訴状を提出した途端に、相手から和解の申し出があったものと思われる(もっとも和解時点で既に事故後9年経過していたので、こちらとしても相応の損害金加算を条件に和解を成立させた)。
担当裁判官&当職のコメント
結局、裁判所は訴状を受付けて形式的な審査をしただけで、中身の審理は何もせずに終わったので、非常に楽でした。担当裁判官が、初回期日の法廷で、こんな事もあるのですね!と明るく言っていたのはその事を物語っています(こんな解決はありませんよ!とも仰っていました)。
裁判は長くかかるので誰も喜びません。弁護士の真の役割は、なるべく裁判所のお世話にならずにスパッと早く適正な解決に導くことでしょう。本件では、少しはそのような理想的な活動が出来たものと感じましたし、何よりも依頼者(と依頼者のお母様)が非常に感謝してくれたので、思い出に残る事件となりました。