交通事故による頭部外傷(高次脳機能障害の場合)

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事故によって、意識消失を伴う脳挫傷等の頭部外傷(頭部打撲)を負った場合、外傷自体の治療は終わっても、記憶力が事故前に比べて顕著に低下したり、怒り易くなった等の人格変化を来す場合があります。

 

 

症状は、軽度のものから、仕事が出来なくなる重症なものまで様々ですが、いずれにせよ、頭部外傷後、記憶力の低下や人格変化などの特異的な症状を来す場合があるので、頭部外傷(頭部打撲)のケースは、要注意です。

 

解決事例中で、事例1としてご紹介したケースは、当初の診断名は頭部打撲で、自賠責保険の後遺障害認定は最も低い14級に過ぎませんでしたが、最終的に裁判で2級の後遺障害が認定されました。このケースは平成13年以前のもので、当時はまだ自賠責保険において、いわゆる「脳外傷による高次脳機能障害」というカテゴリーがなかったため、外傷性の精神症状として14級が認定されるに止まったのですが、今でしたら、高次脳機能障害として、当初から自賠責保険で高位の後遺障害が認定されていたケースと思います。

 

つまり自賠責保険では、平成13年から、「脳外傷による高次脳機能障害」を疑わせる事案に対する審査体制を整えましたが、それ以前は、頭部外傷後に残存した精神症状については特別の審査体制はなく、多くの場合、外傷後の精神症状として一括りにされ、14級が認定されるに止まっていたわけです。

 

逆に言うと、それだけ事故との因果関係が分かりにくい症状といえるのでしょう。その証拠に、現在でも、「脳外傷による高次脳機能障害」が疑われるケースは、後遺障害の等級評価が難しいと言われています。医師が扱う領域の中でも、特に専門性の高い領域といわれていますので、我々法律家にとっては尚更、理解が難しい症状(病態)といえます。

 

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私の経験上も、高次脳機能障害が疑われる被害者の方に接すると、軽傷の方だと1回や2回の面談では気付きません。面談の回数を重ね、家族の方からも事情を聴取してやっと、事故によって脳に何らかの異常を来しているようだと推測出来るようになります。

 

例えば、大きな会社で課長職に就いているような方の場合、面談時の会話からは、異常性に気付くことは殆ど出来ません。事故のときの記憶はないと言いながら、その他の事は分かりやすく丁寧に伝える事が出来るからです。しかし、その後、奥様に聞くと、事故後、家の鍵をかけ忘れる事が多くて困るとか、人混みでイライラして自制が聞かなくなるので恐いとか、大声を出すので子供が怯えるようになったなど、記憶力の低下や人格変化を来していることが分かります。

 

さて、問題は、このような外部からは分かりにくい症状を、どのように正確に伝え、正当な後遺障害認定を受けるかです。症状の存在と程度を正当に評価して貰うためには、客観的な検査所見や主治医の診断書類によって、事故後の変化を説明できなくてはなりません。それが弁護士の腕の見せ所なのでしょうが、その事が周知されつつあるためか、最近、認定を受ける前にご相談にみえる方が増えてきました。 

 

上記のケースでは、当該被害者の方は、元々の能力が大変高かったので、普段の会話や、職場での行動をみているだけでは、障害の存在は分かりません。参考まで、高次脳機能障害に特徴的な障害を列挙すると次のようになります。

 

高次脳機能障害に特徴的な障害

①認知障害(記憶力・記銘力の低下)
②行動障害(複数の事を同時に処理できない)
③人格変化(易怒性、衝動性、自発性低下)

 

以上の特徴的な障害が分かりにくい場合であればあるだけ、弁護士としては、治療経過を慎重に辿りつつ、主治医の先生から話を伺ったり、被害者の症状を主治医の先生に伝えたり、必要と思われる検査をして貰ったり、専門医に紹介して貰ったりといった努力をする必要があります。

 

上記のケースでは、検査結果を見ても症状の程度が読みとれないため、知り合いの専門医の先生に、追加検査をして貰った上で、意見書を書いて戴きました。この方の認定結果はこれからですが、主治医や専門医の先生と連携しながら、相談にみえてから一年にわたり、以上のような努力を重ねています。

 

最後に皆様に伝えたいのは、私が以上のような努力を続けることが出来るのは、ご本人や奥様が私のことを大変信頼して下さり、誠実に報告や相談をして下さるからです。お互いの信頼関係がないと、高次脳機能障害が疑われるケースは、最後まで代理人を務めることは出来ません。

 

精神的な障害を抱えているため、ご本人とだけ連絡を取り合っていると、ご本人の期待感が大きくなりすぎたり、思わぬ誤解を生じたりして、最後まで代理を務めることができず辞任せざるを得ないケースもあります。ご家族には、特に熱心に対応して戴く必要があります。この点も、高次脳機能障害事案の特徴といえます。
 
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