【バイク事故判例㉛】バイクで交差点を右折後、駐車場から出てきた乗用車と衝突・転倒し、股関節等を負傷した被害者が、自賠責保険の後遺障害認定(等級14級)を不服として提訴した裁判で、主張どおり併合11級の後遺障害が認められた事例
(平成30年1月12日札幌地裁判決/出典:ウエストロー・ジャパン)
関係車両
バイク(大型自動二輪車) 対 四輪車(普通乗用自動車)
事故の状況
事故現場となった道路は13メートル幅の幹線道路。バイクは交差点を右折後、幹線道路に進入したが、そこに路外の駐車場から出てきて右折進行しようとしていた乗用車がいたため、衝突し、右に転倒した。
けが(傷害)
腰背部打撲傷、両膝関節捻挫、右膝半月板損傷、両股関節挫傷等
治療期間
約1年2ヶ月(通院のみ)
後遺障害
自賠責保険の等級認定は、左股関節捻挫後の左股関節痛につき14級9号(「局部に神経症状を残すもの」に該当する。)
判決のポイント
①過失割合(バイク10%、乗用車90%)
裁判所は、原告(バイク)にも、右折先道路の確認を怠った過失があると判断しましたが、被告(乗用車)については、「特に、路外から道路に進入しようとする車両の運転者には,道路上の車両の走行を妨害しないように車両を道路内に進入させる義務があり,被告には原告よりも重い義務が課されていた」との理由で、90%の過失を認定しました。
②右膝半月板損傷、両股関節唇損傷の発生の有無
原告(バイク)は、本件事故によって右膝半月板損傷、左右股関節唇損傷の傷害を負い、同部位にいずれも12級13号の後遺障害(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)が残ったので、後遺障害等級は併合11級であると主張しました。
これに対し、被告(乗用車)は、原告の右膝には事故前から加齢による変性所見があった、左右股関節唇損傷が明らかになったのは事故から3年以上経過後だったこと等を理由に、右膝半月板損傷や両股関節唇損傷は、老化や事故以外の外傷によって発生したと反論しました。
裁判所は、まず半月板損傷について、原告の右膝の半月板損傷は右膝内側半月板後角の変性断裂であること、スポーツ外傷のような大きな外力で断裂が起こることは少なく日常生活レベルでの捻挫や軽微な外傷で発症することが殆どであることを理由に、事故との因果関係を否定しました。
一方、股関節唇損傷については、股関節唇損傷の多くは,臼蓋形成不全や股関節インピンジメント(FAI)などの骨形態異常を原因として生じるが原告の両股関節に骨形態異常があったとは認められないし、経年によって股関節唇損傷が生じる可能性は非常に少ない事を主な理由に挙げ、事故との因果関係を肯定しました。
③後遺障害の程度
裁判所は、上記に続けて、原告には左右の股関節唇損傷の傷害によりそれぞれ後遺障害等級12級13号相当の疼痛が残存し,あわせて併合11級相当の後遺障害が残存したと判断しました。
小林のコメント
①過失割合について
本件の乗用車のように駐車場から道路に出てきた車両は路外進入車といわれますが、路外進入車については、道路交通法上、次のように規定されています。
「歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない」(道交法25条の2第1項)。裁判所が、「被告には原告よりも重い義務が課されていた」と述べたのは、このような法規の存在を前提にしています。
また、本件の現場道路は交通量の多い幹線道路だったので、路外車にはより一層、進入先道路の安全を確認すべき義務があったといえます。
②膝内側半月板後角の変性断裂、股関節唇損傷について
バイク運転者は53歳で、検査画像上、右膝や左股関節に加齢性(老化)の異常所見がありました。そのため、同部位の怪我は事故によるものか否かが争点となりました。この点につき、裁判所は、上記のとおり膝内側半月板後角変性断裂と呼ばれる膝半月板損傷に関する医学的知見と、股関節唇損傷に関する医学的知見に基づき、膝については事故との因果関係を否定し、股関節については反対に、事故との因果関係を肯定しました。
事故によって受傷した部位に加齢性の異常がある場合は、しばしば事故との因果関係が問題となりますが、本件はその典型例といえます。
【2023年11月21日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか