【高齢者の交通事故判例⑪】術後リハビリのため低速度で交差点を横断中の65歳男性が右折車に衝突され右大腿骨転子部骨折等の傷害を負い、右股関節の可動域制限等が残ったとして提訴したところ、被害者には事故発生の過失はないとされたが、既往症等を理由に後遺障害が否定された事例

(令和4年9月30日名古屋地裁判決/出典:ウエストロー・ジャパン)

 

事故状況

事故現場は、横断歩道なく、交差道路に優先関係のないT字路交差点。

被害者(65歳)は私病の手術後のリハビリのため1歩に1秒を要する低速度で突き当り路を横断中であったが、その際、交差点を右折してきた四輪車に衝突された。

 

けが(傷害)

右大腿骨転子部骨折、右肋骨骨折、腰部挫傷、頚部挫傷

 

治療期間

入院104日、通院期間382日

 

判決のポイント

①過失割合

裁判所は、道路状況その他の事故状況から、本件の過失割合は基本的に被害者15%、四輪車85%であるとしながら、次の理由により被害者の過失は0%と結論しました。

 

理由1:現場付近は住宅街なので被害者の過失を5%減算すべき。

 

理由2:被害者は65歳で、私病(がん)の手術後のため体力が低下していたから、高齢者修正として、その過失を5%減算すべき。

 

理由3:運転者は被害者と衝突して初めてその存在に気付いたもので、これは脇見運転とも同視すべき不注視と評価すべき事情であるから、運転者側の著しい過失として、被害者の過失を5%減算すべき。

 

結論:そうすると被害者の過失割合は0%となり、本件事故について過失相殺をするのは相当でない。

 

②後遺障害

被害者は、本件事故によって次の後遺障害が残存したと主張しました。
1. 右股関節の機能障害(後遺障害等級は12級)
2. 腰部痛、右下肢の痛み、しびれ感(後遺障害等級は12級か少なくとも14級)
3. 左母指、示指の感覚異常等(後遺障害等級は14級)
4. 以上を合わせると後遺障害等級は併合11級となる。

 

これに対して、裁判所は次のとおりいずれの主張も認めませんでした。

 

1について:被害者の右股関節の可動域角度は健側である左側と同じ数値である。よって、右股関節の機能障害は否定される。

 

2について:腰部痛・右下肢の痛み・痺れ感は、既往症である腰部脊柱管狭窄症によるものである。よって、本件事故による後遺障害とは認められない。

 

3について:左母指、示指の感覚異常等も、本件事故以前にこれらの症状を訴えて医療機関を受診していたことから本件事故による後遺障害とは認められない。

 

小林のコメント

被害者は事故前から、左頚部痛、左上腕~母指、示指にかけてのしびれ等を訴えて病院を受診し、腰部脊柱管狭窄症と診断され、頸部にも脊柱管狭窄が認められ、手術を受けていました。また、直腸の手術も受け、その後から左前腕・手指の痺れが悪化する等していました。

 

高齢の方の場合、既往症があるケースが多く、事故による傷害といえるか、事故による後遺障害といえるか、事故による治療の範囲はどこまでかといった点が問題になる事が多く、本件でも、これらの点が争点となりました。

 

提訴前の自賠責保険の判断は後遺障害非該当というものでしたが、裁判でも結果は変わりませんでした。なお、請求額は1564万円余りでしたが、認容額は468万円余りに止まりました。

 

【2024年4月19日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

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