【高齢者の交通事故判例⑧】路肩に停止した乗用車が後続車に追突された事故で、乗用車の助手席に同乗中の75歳男性が、追突により脊髄損傷等の受傷をしたとして、3200万円の損害賠償を請求するも、事故による受傷を認めることができないとの理由で請求が棄却された事例

(令和4年5月26日大阪地裁判決/出典:ウエストロー・ジャパン他)

 

事故状況

原告男性が同乗する乗用車(普通乗用自動車)が駐車場出入り口手前の車道左端付近で停止したところ、後続の普通貨物自動車が、その4.4m程手前で乗用車に気づき、右にハンドルを切って避けようとしたが避けきれず、貨物車の左前角近くの側面と乗用車の右後部角付近とが接触した。

 

貨物車の速度は時速20km程度で、原告男性は事故の際、頭を振られたものの、ヘッドレストに頭をぶつけることはなかった。

 

けが(傷害)

原告男性が主張する傷病名は、頸椎症性脊髄症、脊髄損傷

 

治療期間

通院日数30日、入院18日(症状固定までの期間は事故後約1年3ヶ月)

 

後遺障害

自賠責保険の後遺障害等級認定はない(原告は自賠責保険の被害者請求をしたが支払を受けられなかった)

 

判決のポイント

裁判所は、交通事故による受傷が認められない場合は、原告の請求(治療費、休業損害、慰謝料等の損害)は全て認められないことになることから、事故による受傷の有無を中心に審理しました。
そして、概要、次の理由により事故による受傷を否定し、請求を棄却しました。

 

① 原告は、本件事故の際、頭を振られたもののヘッドレストに頭をぶつけることはなく、事故直後に特に痛みも感じず、痛みを訴えることもなかった。

 

追突時の時速、各車両の修理費が少額であったこと、各車両運転者が受傷していないこと等からも、本件事故は比較的軽微な接触事故で、原告が受けた衝撃も比較的軽微であった。

 

② 原告は、事故直後に医療機関を受診しておらず、事故を告げて医師の診断を受けたのは事故後3週間以上経った後であった。脊髄損傷の多くが受傷直後から何らかの症状を呈することが周知の事実であることに照らすと、原告の受診経過は事故による脊髄損傷の一般的な経過と整合しにくい。

 

③ 原告は、頸椎症性脊髄症の既往症を有し、本件事故の約25年前から頸椎の手術を勧められ分節型後縦靭帯骨化を患う等、外傷がなくても自然経過において脊髄症を発症する可能性があった。

 

④ 両膝崩れや両手しびれといった頸椎症性脊髄症と整合する症状が本件事故の1か月程度前から発現していた。したがって、原告が事故後に訴えた症状は、既往症である頸椎症性脊髄症が自然的経過において増悪したものと解することも十分に可能で、そのような可能性を容易に排斥し難い。

結局、本件事故によって原告が受傷したものと認めることはできない。

 

小林のコメント

高齢者は加齢による既往症を有している事が多く、交通事故後の症状が事故によるものか既往によるものかが問題になるケースが多いです。

 

本件で原告となった75歳男性は、頸椎症性脊髄症という既往症を有していていたことから、裁判では、事故を契機に頸椎症性脊髄症が悪化した否かが中心的争点となりましたが、裁判所は上記の理由により事故による受傷を否定し、事故による頸椎症性脊髄症の悪化も否定しました。

 

【2023年8月22日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

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