【高齢者の交通事故判例⑫】82歳男性が自転車で走行中、自動車に衝突され、両肩に挙上制限が残った事故に関し、自賠責保険では左肩のみ12級後遺障害が認定されたが、裁判では、事故により右肩腱板断裂の症状が悪化したことを理由に右肩についても10級後遺障害が認められ併合9級と認定されたが、事故前からの素因を理由に30%減額された事例

(令和5年10月27日大阪地裁判決/出典:自保ジャーナル2166号20頁等)

 

事故状況

自転車で道路を斜め横断中に、左後方から自動車が衝突し、自転車から地面に投げ出され全身を強く打った。

 

けが(傷害)

両側肋骨多発骨折、両肺挫傷、左肩鎖関節脱臼、右鎖骨骨幹部骨折など

 

治療期間

約2年(入院日数259日、通院日数48日)

事故後、両肩が挙がらなくなったため手術を受けたが、改善せず、挙上制限の症状が残った。

 

自賠責保険の後遺障害認定

左肩関節について12級6号(可動域が4分の3以下に制限されていることによる機能障害)。右肩は後遺障害非該当。

 

判決のポイント

①右肩の後遺障害と事故との因果関係

被害者は、事故により右肩関節の可動域が2分の1以下になったことを理由に後遺障害等級10級10号に該当するとし、左肩の12級後遺障害と併せて併合9級であると主張しました。

 

裁判所は、事故後、被害者が右肩に強い痛みを生じ挙上困難となったこと、事故時に全身を強く打ち右肩にも大きな衝撃が加わったこと、主治医が事故前から存在していた腱板断裂が事故により拡大悪化し発症したと考えていること等を理由に、被害者の症状は事故前から存在していた腱板断裂が本件事故によって拡大悪化したものであるとし、事故との因果関係を認めました。

 

そして被害者の主張どおり、後遺障害は併せて併合9級に該当すると認定しました。

 

<注>後遺障害等級9級は、労働能力が事故前に比べ35%制限された状態を指します。

 

②過失割合

道路横断中の自転車と直進自動車との衝突事故では、基本的に被害者過失は30%とされますが、本件では被害者が高齢者であることが考慮され、被害者過失は20%と認定されました。

 

③素因減額

被害者の怪我と後遺障害については、事故前から存在していた右肩の腱板断裂が影響しているとし、このような被害者の素因を考慮して、被害者に生じた損害を30%減額するとされました。

 

この結果、裁判所は認定した総損害額から30%の素因減額をし、さらに20%の過失相殺による減額をし、最後に既払い金を控除し、約510万円の賠償金支払を命じました。

 

小林のコメント

交通事故では転倒時に肩の腱板を損傷することが珍しくありません。

 

しかし、自賠責保険に後遺障害の認定を申請をしても後遺障害と認めて貰えないことが殆どです。それは、腱板断裂を含む腱板の損傷は加齢によっても発生するため、事故との因果関係が厳しく判断されるためです。

 

本件では裁判を起こした結果、自賠責保険の認定を覆すことができましたが、事故前から腱板断裂があったという素因が考慮され、減額されました。

 

高齢者は既往症があることが多いため、高位の後遺障害が認定された場合も、本件のように素因減額がされることが多いです。

 

【2024年11月20日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

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